ニュースイッチ

自動車向けは合弁解消もLIB用部材を増強するクレハの狙い

自動車向けは合弁解消もLIB用部材を増強するクレハの狙い

フッ化ビニリデン樹脂

 クレハは14日、2018年度に売上高1700億円(15年度見通し1450億円)、営業利益160億円(同120億円)を目指す3カ年の中期経営計画を策定したと発表した。設備投資は3年で500億円。18年度にリチウムイオン2次電池(LIB)用部材に使われるフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)の生産能力を増強する。19年度には自動車の電装部品向け耐熱性樹脂など高付加価値製品も増産する。

 小林豊社長は会見で「過去4回の中計が未達と”オオカミ少年“続きだった反省を踏まえ、あらゆるリスクを織り込んだ。差別化製品にこだわった技術立社を目指す」と強調。機能製品を中心に経営資源を投入し、PVDFや耐熱性樹脂などの戦略製品を拡充する。

 シェールガスの掘削部材用途が好調な生分解性のポリグリコール酸(PGA)樹脂は北米以外への展開を模索、収益の柱に育てる。

 事業部別の売上高目標はPVDFなど機能製品が550億円(15年度見通し380億円)、医薬・農薬を手がける化学製品が同300億円(同320億円)、「NEWクレラップ」などの樹脂製品が同500億円(同440億円)とした。

合弁解消、自動車向け事業拡大至らず


日刊工業新聞2015年12月3日


 クレハは2日、車載用のリチウムイオン二次電池(LIB)向け材料を手がける「クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン」(KBMJ、東京都中央区)を解散すると発表した。合弁相手の伊藤忠商事など3社から全株式を買い取り、2016年4月に事業を取り込む。取得額は非公表。車載用LIB市場の立ち上がりが遅れる中、主要部材の負極材需要も停滞。新たな設備投資計画もないことから、合弁の解消を決めた。

 KBMJはクレハの50・1%を筆頭に、伊藤忠商事とクラレがそれぞれ20%、産業革新機構が9・9%出資する。ハードカーボン負極材はホンダ日産自動車のハイブリッド車(HV)向けが中心とみられるが、もう一段の事業拡大には至らなかった。今後は中国の電気自動車(EV)向けにも注力するものの、競合の多さが課題。このため同製品は当面、足元と同じ約6億円の売り上げ規模を保つ考え。

 KBMJは11年に、車載用LIBに使われるハードカーボン負極材の製造・販売とバインダーの販売会社として設立された。12年にクラレと革新機構の資本参加も受け最大200億円を調達できる体制に強化したが、市場の成長が遅れ資本調達の必要性が薄れた。15年3月期の売上高は61億円。

 クレハはリチウムイオン二次電池(LIB)用バインダーや太陽電池バックシートに使われる、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)の生産体制を見直す。いわき事業所(福島県いわき市)で生産する汎用電池用の一般品の大半を2014年度に立ち上げた中国工場(江蘇省)に集約し、いわきは高性能電池用の特殊品に特化する。スマートフォンやパソコン用LIBの需要増に応えると同時に、排ガス規制が進む中国の電気自動車(EV)用途を開拓する。

生産体制見直し。いわきは特殊品、一般品の大半は中国に


日刊工業新聞2015年5月27日


 クレハは現在、いわきで特殊品と一般品、中国で一般品を生産する。日本市場は特殊品の需要が伸びると見て、一般品の生産拠点を中国に移転。いわきの特殊品と一般品の既存設備を改造して生産効率を上げ、特殊品の生産能力を増強する。いわきで生産してきた一般品は顧客の性能評価が終わり次第、段階的に中国生産に切り替える。

 18年をめどに、いわきの生産能力は年4000トン(一般品換算)を継続するが、生産の大半は特殊品となる。中国では18年に一般品を同5000トンのフル稼働にする計画だ。

 アジアには大手LIBメーカーの生産拠点が集中しているため、クレハが中国で生産するPVDFはほぼ日本や韓国、中国に出荷される。特に中国の電池メーカーは中小合わせて約300社あるとみられ、クレハが中国で売り上げを伸ばす原動力になっている。また車載用電池は地方政府の後押しを背景に、EVの路線バスも開発されている。バス用の電池は大きさが乗用車の約10倍になるため、PVDFの需要増が期待できる。

 ただ、最近は中国に特殊品を輸出するケースも相次いでいる様子。中国のPVDFメーカーは技術面で日本など海外勢に劣るため、欧米への輸出を増やしたい中国の電池メーカーには「日本のPVDFなど高性能の材料を使って電池の性能を“欧米水準”に上げ、技術的な劣勢を一気に克服しようという動きが目立つ」(関係者)。クレハは中国国内で10%強のLIB向けシェアを、18年に30%に高める狙いだ。

記者ファシリテーター


 クレハは2016年度から3カ年の次期中期経営計画で、成長の“けん引役”に機能製品を位置付けた。長らく業績を支えてきた医薬・農薬事業の収益力が低下。5回目の中計未達だけは避けたい同社は「技術立社として差別化された製品を開発する、高付加価値型企業」(小林豊社長)へと舵を切る。目標必達のため、従来であればグレーゾーンとして温存したであろう事業にもメスを入れた。

 リチウムイオン2次電池(LIB)用の負極材はその一例。国内ではハイブリッド車(HV)向けに実績があるが、種類や競合の多さが障壁となり事業拡大でつまずいた。炭素繊維とあわせ、事業の再構築に移る。半面、同じLIB向けでもバインダー(接着剤)に使うフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)は市場シェア50%超と際立つ。自動車の軽量化に寄与するポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂や、生分解性のポリグリコール酸(PGA)樹脂など、今後はすでに圧倒的な存在感を放っている分野にこだわっていく方針だ。
<続きはコメント欄で>
日刊工業新聞2016年3月15日素材面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 4月には、新規事業のテーマを探索する社長直轄のプロジェクトも発足する。「19年度以降の事業を支えるテーマが育っていない」(小林社長)ためだ。研究開発だけでなく事業部門からも人材を集め、事業化でグレーゾーンになるリスクを排除。“オオカミ少年”は返上できるか。小林社長の本気度が試される。 (日刊工業新聞社編集局第二産業部・堀田創平)

編集部のおすすめ