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金型生産額がリーマン前の8割まで回復も、押し寄せる変革の波

EV化やハイテン対応、受注拡大の分岐点に
金型生産額がリーマン前の8割まで回復も、押し寄せる変革の波

3Dプリンターで作る樹脂製金型と金属製金型を組み合わせて細かいデザイン加工を提案

 自動車、半導体業界などの活況を受けて、金型企業にも追い風が吹いている。ただ、金型企業の大半が関わる自動車業界には電動化や電装化の波が押し寄せ、大きな変革期を迎えている。その変化を敏感に感じ取る金型企業も活況の波に乗りながら、次の手を練っている。金型各社の取り組みを探った。

 経済産業省の「機械統計」によると、国内の金型生産実績(金額ベース)は2006年に4879億円まで増えたが、リーマン・ショックなどの影響で09年には3159億円まで急落した。その後、4年ほど横ばい状態を続けた後、じわじわと生産が増えて16年には3978億円まで回復した。

 金型メーカーに聞くと、足元の需要はかなり活気を取り戻している。自動車向け金型の設計・試作などを手がけるベントム工業(浜松市中区)の本田大介社長は「金型受注の現状は良い。取引先も増えている。

 “受注産業”の金型だが、全体的に伸びている印象」と好感触をつかんでいる。新日本テック(大阪市鶴見区)の和泉康夫社長も「IoT(モノのインターネット)の普及や、車の電装化の影響で電子部品向けが好調」としており、車向け以外でも景況は上向いているようだ。

 それでも、ベントム工業の本田社長は「例えばダイカストは大型化が進んでおり、設計段階からの対応力を磨かなければならない。足元は堅調だが、電気自動車(EV)化など業界の変革に対しても、しっかり準備したい」と気を引き締める。

 自動車やデジタルカメラ向け金型などを手がける長津製作所(川崎市中原区)も「車向けはまだエンジン車の受注が多い。ただ、今後は自動運転用のカメラやセンサー関連の需要が増えるため、特殊形状の金型に磨きをかけたい」(担当者)と変化に備える。

 自動車のボディーフレーム用金型を製作するナガラ(名古屋市中川区)の早瀬隆士社長は、金型で加工する材料がカギを握るとみる。

 狙うのは板厚を薄くしても剛性を保つことができて、車の軽量化に貢献できる高張力鋼板(ハイテン)だ。早瀬社長は「ハイテンは金型製造も難易度が高くなる。ハイテンをうまく扱えるかどうかが、今後の受注拡大の分岐点になるはず」と見通す。

3Dプリンターも活用


 車以外の新分野に進出して変化に対応する企業もある。中辻金型工業(大阪府東大阪市)は3Dプリンターでつくる樹脂製の金型と金属製の金型を組み合わせて、板金に細かいデザインを施すプレス加工法を提案する。

 戸屋加代総括部長は「金属型で出せないデザインを作れて、納期も短縮できる」と利点を強調。鉄道車両の内装用部品の加工に採用されるなど実績も出ている。

 車向けプレス金型が主力の駒井工作所(滋賀県草津市)は「相談は増えているが、EV化対応の具体的な動きはまだない」(担当者)という。

 一方、「最近は成長分野の医療向け部品の試作金型の受注が増えており、ここ数年来で一番忙しい」(同)と胸を張る。得意とする小ロット対応で実績を重ねて、大手からの量産受注につなげたい考えだ。

 野田金型(大阪府高石市)も車用の金型が主力だが、最近は航空機向け部品の試作受注を始めた。7月には英国で開催されるファンボロー国際航空ショーへの出展も計画しており、「航空機やロケット向けの試作受注の獲得を積極的に狙いたい」と新分野の開拓に意欲を示す。

 現在、日本金型工業会の会員の約7割が関わる車向けの金型は、新車種や新部品をつくる際に需要が生まれる。しかし、金型は大手メーカーの中長期戦略と設備投資に連動する要素が大きい。

 金型を“つくるか、つくらないか”は、発注元である大手メーカーの“トップシークレット”でもあるため、金型企業にも確かな需要を予測しにくいのが悩みの種だ。

 日本金型工業会の中里専務も「景況は良くなっているが、先行きは見通しにくい」と打ち明ける。金型各社は上向く景況に乗りながらも、次の手を探って変化に備えている。
                    

(文=大阪・林武志、同・錦織承平)
日刊工業新聞2018年5月4日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
全国で約400社の正会員を抱える日本金型工業会(東京都文京区)の中里栄専務理事は「景気低迷後は自動車メーカーなどの開発が滞った。金型は開発段階に関わる仕事も多いため、回復に時間がかかった。統計上はリーマン前の8割に戻ったが、まだ回復途上」と慎重だ。 (日刊工業新聞大阪支社・林武志、錦織承平)

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