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炭酸水ブームに乗れ!飲料各社が王者「ウィルキンソン」の切り崩し狙う

新規参入相次ぐ、ペットボトルコーヒーも競争激化
炭酸水ブームに乗れ!飲料各社が王者「ウィルキンソン」の切り崩し狙う

市場をけん引してきたアサヒ飲料の無糖強炭酸水「ウィルキンソン」(製造ライン)

 消費者の生活習慣の変化が、飲料の新たな市場を作り出す―。飲料メーカー各社が相次いで新製品を投入している無糖炭酸水やペットボトルコーヒーは、一見当たり前の商品。この“当たり前”という先入観を超えたところに、市場を動かすカギがある。少子高齢化や人口減少で飲料市場の大きな伸びが見込めない中、飲料メーカー各社の挑戦は続く。

 無糖炭酸水は新たな飲用シーンにより、市場が大きく変貌したカテゴリーだ。かつてはウイスキーなどの割材といった存在だったが「直接飲用(直飲み)」という新しい飲み方が広まり、需要を一気に底上げした。これにより市場も大きく拡大。新規参入が相次ぎ、飲料市場を刺激する存在になっている。

 無糖炭酸水は、酒類の割材としては歴史が古い。とはいえ、2008年頃まで、市場規模は年間500万―600万ケースを推移していた。ところが、10年頃を境に伸び率が20―50%と跳ね上がる。17年には4180万ケースに達した。

 この伸びは、09年頃からのハイボールブームで需要が拡大したことが要因だ。ここに、美容やダイエットを背景とした、直飲みという新たな飲用シーンが現れ、市場拡大に拍車がかかっている。

 この市場をけん引してきたのが、アサヒ飲料の無糖強炭酸水「ウィルキンソン」だ。これに日本コカ・コーラが「カナダドライ」ブランドで参戦。さらにサントリー食品インターナショナルも強炭酸商品「南アルプススパークリング」で本格的に市場開拓を目指す。競争激化により、市場が活性化し、需要がさらに拡大している。

 「まだまだ伸びる余地がある」。シェア50%のウィルキンソンをもつ、アサヒ飲料の岸上克彦社長は強気だ。17年は前年比22・1%増の1990万ケースを販売し、10年連続で過去最高を更新した。07年の161万ケースに比べ12倍超に成長した。

 同社は直飲みのニーズにいち早く対応。11年にそれまでの瓶容器から500ミリリットルペットボトルに切り替えた。これをテコに、確固たる地位を築いてきた。

  

 これだけ急成長している市場を、アサヒ飲料が思いのままにする状況に、他の大手飲料メーカーも黙っていない。日本コカ・コーラが切り崩しを狙い、「カナダドライ ザ・タンサン・ストロング」を3月に投入。水に加え、炭酸ガスの泡まで濾過し、強炭酸の刺激と、おいしさの両立を追求した。

 さらにサントリー食品インターナショナルが、アウトドアメーカーのスノーピークと共同開発した無糖強炭酸水「南アルプススパークリング」を4月に発売。沖中直人執行役員は「炭酸水の成長の要因の一つに、日常のストレスの解消がある」と指摘する。

 従来商品に比べ大幅に充填時ガス圧を高め、ペットボトル口部とネジの構造を工夫。開封時に「ポン」という軽快な音が鳴る仕組みで、聴覚にも訴える。強い爽快感で、消費者を引きつける戦略だ。

 各社の新製品投入で、市場の競争激化は必至だ。競争で市場が活性化すれば、消費者にとって選択肢が増える。市場の先行きが注目される。

ペットボトルコーヒー 職場向け手軽さ訴求


 「オフィスなどで、コーヒー飲料をゴクゴクと飲んでもらいたい」。アサヒ飲料の岸上社長は、ペットボトルの新商品「ワンダ TEA COFFEE」を力強くPRする。

 コーヒーは本来、くつろげる時間に香りを楽しみながら少しずつ味わうイメージがある。「ゴクゴク」飲むという飲用シーンは想像しにくい。

 コーヒー飲料の主流である缶コーヒーでも、仕事の合間に一服するものという固定観念がある。ただ、オフィスで仕事をしながら飲む場合は、合間にふたをするニーズがあり、市場にはキャップ式のロング缶がすでに存在している。とはいえ、それもゴクゴクと飲む人は少ないだろう。

 ペットボトルコーヒーを最初に仕掛けたのは、サントリー食品インターナショナル。17年4月に500ミリリットルペットボトルの「クラフトボス」を発売した。“缶コーヒーじゃない、ボス”をキャッチフレーズとした新たな挑戦だった。

 これまでコーヒーが苦手であまり飲まなかった若い層や女性をターゲットに、苦みを抑えた味わいにした。さらにペットボトルにすることで、炭酸・清涼飲料と同じ感覚で手に取れるようにした。これが1年足らずで1000万ケース(2億4000万本)を売り上げるヒットを飛ばした。

 サントリーがオフィスなどでミネラルウオーターや緑茶飲料と同じように、手軽に飲めるコーヒーというカテゴリーを作り出した格好となった。

 クラフトボスのヒットが各社の参入を呼び込み、競争が激化した。18年にUCC上島珈琲が「UCCブラックゴールドブリュー」、伊藤園が「タリーズコーヒー」ブランドでペットボトルコーヒーを投入。さらに日本コカ・コーラが「ジョージア」ブランドで本格的にシェア獲得に乗り出した。5月に発売する「ジャパン クラフトマン」は、水出し抽出のコーヒーを一部に使用して、やさしい味わいを強調している。また、アサヒ飲料はコーヒーに茶葉を混ぜてすっきりした後味で差別化する。

 市場の活性化により、ペットボトルコーヒーは今後も高い伸びを続けるとみられる。コーヒー飲料全体でみれば、まだ小さな存在ではあるが、コーヒーの可能性に一石を投じたことは確かだ。
(文・井上雅太郎)
サントリー食品インターナショナルの「クラフトボス」

日刊工業新聞2018年5月4日
葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
アルコールが苦手な自分としては、風呂上がりに一本の無糖炭酸水にいつの間にかやみつきになりました。欧米のようにレストランでも炭酸水が水の代わりに提供される時代がくるのでしょうか。

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