“投資家デンソー”が発した「1兆円の買収ならやれる」

「生きるか死ぬか」という危機意識が浸透

 デンソーが大手企業やベンチャー企業への提携戦略を積極化している。自動車産業は「100年に一度」とされる大変革期に突入し、大胆なM&A(合併・買収)や資本参加の重要度が増している。自動車部品で世界2位のデンソーもここにきて、ルネサスエレクトロニクスへの増資やJOLEDへの出資、ベンチャー企業への相次ぐ資本参加と、提携を推進する。

 「本気を出せば数千億円から1兆円くらいの買収もやれないことはない」。2017年10月31日にデンソーが東京都内で開いたアナリスト向けの決算説明会で、経営企画や経理を担当する松井靖常務役員の口から刺激的な言葉が飛び出した。

 デンソーはデンソーテン(旧富士通テン)への出資比率を従来の10%から同年11月に51%へ高めて子会社化したが、投じた資金は約169億円。これまで大型のM&Aや出資に距離を置いているイメージが強い。

 13年に経営再建中のシャープが実施した第三者割当増資を引き受けた際も、マキタが約100億円、LIXILが約50億円を用意したのに対し、デンソーは約25億円。それだけに、従来とはケタ違いの資金をM&Aへ投入することを示唆した発言は大きなインパクトを残した。

 デンソーは提携戦略を短期的な「経営資源の確保」、中期的な「必要技術の補完」、長期的な「将来技術・新たなビジネスモデルの獲得」に分けている。大型投資であるルネサス、JOLEDとの資本関係強化は三つの戦略のうちの「必要技術の補完」にあたる。

 ルネサスエレクトロニクスへの出資比率は14日付で0・5%から5%に引き上げた。もともとデンソーは経営再建中のルネサスが13年に実施した第三者割当増資の引受先の1社だったが、今回はルネサスの筆頭株主である政府系投資ファンドの産業革新機構が保有する株式の一部を相対取引で追加取得。取得額は株価換算で800億円を超える。急激に進む電動化や自動運転技術への対応力と調達力を高めるのが狙いだ。

 ジャパンディスプレイ(JDI)の関連会社で、有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)ディスプレーを手がけるJOLEDにも300億円を出資することを決めた。

 デンソーは調達か自社生産か明らかにしていないが、車載機器に提案するため曲面仕様の有機ELディスプレーの試作品を完成している。

 印刷方式有機ELディスプレーの量産を目指すJOLEDには母体企業のパナソニックとソニーが追加出資し、材料の住友化学や装置のSCREENホールディングスも出資する方針だ。将来の調達などを考えるとデンソーも良好な関係構築が欠かせない。

 さらにデンソー幹部は「オープンイノベーションの一つ。曲面ディスプレーに強いので連携したい」と出資の意義を強調する。

 17年5月にデンソーが出資比率を引き上げ第2位の株主となったイビデンとは排ガス規制の世界的な強化を見据え、高性能な排気システムなどを共同開発する。

 子会社化したデンソーテンとはカーナビゲーションシステムや車載ECU(電子制御ユニット)、ミリ波レーダーなどで連携。自動運転技術や電子基盤技術で相乗効果を狙う。

 協業するNECとは子会社のNECプラットフォームズ(東京都千代田区)との共同出資会社「デンソーネクスト」(川崎市中原区)を設立。同年12月から車載向け情報通信機器の開発をスタートした。

 デンソーを突き動かすのは、自動車産業を取り巻く環境の変化だ。生き残りのためにCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる領域への対応が急速に求められるようになり、研究開発費の増大や守備範囲の拡大なしにはまかないきれない状況にある。

ベンチャーにも食指 将来見据え技術投資


 「(ベンチャー出資の増加は)デンソーなりの危機感の表れ。(18年度は)17年度を上回っていくだろう」(有馬浩二社長)。デンソーはベンチャー企業への出資案件も17年度から急速に増やしている。ベンチャーへの出資は同社の提携戦略のうち、長期的な「将来技術・新たなビジネスモデルの獲得」にあたる。

 同社はベンチャー企業に対し、14―16年度までの3年間は累計27億円、単年度ではせいぜい10億円規模の出資しかしていない。

 17年度は10月時点ですでに50億―60億円規模の出資を実施・検討しており、単年度で3年間の実績を大きく上回る金額を投じるとみられる。“クルマ”の概念が大きく変わろうとしている現在、将来性のある技術への投資は死活問題だからだ。

 ここ1年間で「MaaS(マース)」と呼ばれるクルマを使った移動サービス分野ではフィンランドのマース・グローバル、同分野の米アクティブスケーラーに出資。セキュリティー関連では米デルファーに出資してサイバー攻撃を防御する最新技術の車載応用を進め、スマートフォンをクルマの鍵に用いるスマートキーなどの特許技術を保有する米インフィニットキーを買収した。

 国内でも京都大学発ベンチャーのFLOSFIA(フロスフィア、京都市西京区)に出資し、酸化ガリウム(Ga2O3)製パワー半導体の車載への応用を目指す。

 クリエーションライン(東京都千代田区)はクラウド技術やオープンソースなどの次世代ソフトウエアの開発技術に強い。

 すでにトヨタ自動車は15年に三井住友銀行、スパークス・グループと投資ファンド「未来創生ファンド」を設立。トヨタの米国の人工知能(AI)研究・開発子会社も投資ファンドを17年に設立し、アイシン精機も18年2月に米国で投資ファンドを立ち上げるなど、グループを挙げてベンチャー出資を活発化している。

 トヨタ自動車の豊田章男社長が発言する「生きるか死ぬか」という危機意識は、グループに浸透している。
                    

(文=名古屋・今村博之)

日刊工業新聞2018年3月23日

日刊工業新聞 記者

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03月25日
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今後の自動車の変革を乗り越えるために、デンソーもより大型のM&Aに踏み切る可能性は十分にある。強固な財務体質や豊富な人材を生かして矢継ぎ早に出資や連携を進める同社だが、これからは成果も問われてくる。
(日刊工業新聞名古屋支社・今村博之)

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