トヨタグループが「電動化」を大胆披露、革新の裏に半導体あり
「知覚」「認知」「判断」「神経」「筋肉」を担う企業は?
トヨタ自動車グループ各社は27日開幕の「第45回東京モーターショー」で、クルマの電動化に焦点を当てて出展する方針だ。アイシン精機や豊田自動織機などが10日、展示製品などを相次いで発表した。完成車メーカーが電気自動車(EV)や自動運転技術の開発を急ぐ中、世界初公開の製品を含めて関連技術をアピールする。
アイシン精機はグループ6社で共同出展。モーターを一つ搭載するハイブリッド車(HV)向けの変速機や電気式四輪駆動車(4WD)の駆動ユニットの新製品を初公開する。2020年頃の実用化を目指すパーソナルモビリティー「ILY―Ai」も展示する。
豊田自動織機は世界シェア43%を握るカーエアコン用コンプレッサー事業をメーンに展示。電動コンプレッサーの将来モデルも出展する。トヨタ紡織は主力のシートを中心に未来の車室空間を提案。人の体形に応じてシート形状が変わる車室「VODY」や、完全自動運転時代を想定して自在なシート配置を実現する車室「MOOX」など、二つの模型を初展示する。
豊田合成は20年頃の電動車両を想定し、車のハンドルやインストルメントパネル(インパネ)などをまとめた「次世代コックピットモジュール」を出展。30年頃をイメージし、電気の力で動く次世代ゴムを使った車両「FlesbyII」も初めて公開する。
ジェイテクトは電気信号によるタイヤ制御システム「ステアバイワイヤ(SBW)」と車輪内蔵モーター「インホイールモーター(IWM)」を初披露する。両技術を車両モジュール「フューチャー・コンセプト・ビークル=写真」に搭載して出展する。
SBWは、電子制御によりドライバーのハンドル操作を車輪に伝える仕組み。車速や車両姿勢に応じて操舵角制御することで、運転の安全性や快適性を向上させる。
また、車輪近くにモーターを配置するIWMでは、左右輪の駆動力配分などを制御して、横滑り防止能力を高める。このほか、仮想現実(VR)技術を使って、同社の自動運転対応技術を体感できるコーナーも設ける。
デンソーやアイシン精機などトヨタ自動車グループ各社が、2020年前後に完全自動運転車向けの技術や製品をそろって市場投入する。トヨタは20年頃に高速道路で、20年代前半には一般道で自動運転車の実用化を目指しており、部品メーカーも技術基盤を固める。各社はシステムの提案力を高めてトヨタ自動車以外にも売り込む考えで、連携の仕方によっては将来のグループ再編につながる可能性もある。
デンソーは9月、自動運転用の半導体IP(知的財産)の設計・開発を担う新会社を設立する。狙いは、自動運転時に前方に障害物が飛び出してきた時の回避など「とっさの判断」に必要とされる高性能半導体の実用化だ。
新会社「エヌエスアイテクス」は、「DFP」(データフロープロセッサー)と呼ぶ新しい構造のプロセッサー(処理装置)を開発し、半導体メーカーにライセンス販売する。
現在の主流であるCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理演算装置)と比べ、大量の演算処理には向かない半面、複数の演算処理を柔軟に組み立てることができ、効率的に計算できるという。量産化は20年代前半の予定だ。
自動運転車向けの半導体では米エヌビディアが大きな注目を集める。GPUによる大量処理に強みを持っており、5月にはトヨタとの協業も発表した。
一方、米インテルは自動運転向けシステムを担うイスラエルのモービルアイを約1兆8000億円で買収すると決定。21年の発売を視野に、独BMWと完全自動運転車を開発中だ。米クアルコムも16年に約5兆円を投じ、自動運転用半導体に強いオランダのNXPの買収を決めた。
攻勢を強める海外勢に対し、デンソーも真っ正面から立ち向かう。既に東芝と画像認識用の人工知能(AI)の共同開発などを進めており、自動運転の「判断」用の半導体としてDFPを使うことを想定する。
新見幸秀エグゼクティブアドバイザーは「我々はエヌビディアやインテルなどの技術を採用する側で、脅威とは考えていない」としつつ、DFPの提供で「彼らの不得意な領域を埋める」ことを狙う。
例えば、自動運転時に前を走るバスが停留所に止まり、右にレーンを変えるとする。この時、GPUは車両から見て全方向に演算処理をかけるのに対し、デンソーが開発するDFPは左前方など関係のない方向の計算をやめられる。
これにより全体の計算量を少なくし、発熱や消費電力を抑制。DFPの消費電力は「一般的なGPUの10分の1以下」(デンソー)としている。
車載半導体の消費電力低減という課題は自動運転車の前に立ちはだかる大きな壁。爆発的に増える情報処理量への対応がネックになっている。
トヨタの自動運転車を開発する米トヨタ・リサーチ・インスティテュートのギル・プラット最高経営責任者(CEO)も「現在の最も大きな課題はシステムの消費電力」と話す。
自動運転の「知覚」「認知」「判断」の部分をデンソーが担うなら、「神経」や「筋肉」に当たる部分を突き詰めるのがアイシン精機やジェイテクト、トヨタ紡織などだ。
アイシン精機は、変速機やブレーキといった従来強みを持つ製品群を束ね、車両運動を統合制御する技術や、全自動駐車(自動バレー駐車)システムの開発を進める。自動バレー駐車は20年代前半の市場投入を目指す。
藤江直文副社長は「我々の技術の中核は駆動部品やアクチュエーターなど実際にクルマを動かす部分。上位の入力系統がどんなに変わっても、我々のシステムで指令を受けてクルマを安全に動かす」と語る。
アイシンはハードウエアを極める一方、出遅れがちだったソフトウエア開発も強化。5月、東京・台場に人工知能(AI)の開発拠点を新設した。ハードを動かす電子制御ユニット(ECU)やアルゴリズムの開発を強化する。
電動パワーステアリング(EPS)で世界シェア最大手のジェイテクト。20年をめどにハンドル操作を電気信号でタイヤに伝える「ステアバイワイヤ(SBW)」を量産化する方針だ。
SBWは既に一部市販車に採用されているが、開発中の製品は自動運転を強く意識。ハンドルとシャフトの機械的なつながりを一切なくした「リンクレスSBW」も25年をめどに実用化する。
シートを主力とするトヨタ紡織は、自動運転車両の普及に備え、車室内での過ごし方そのものの提案活動を強化している。具体的には、搭乗者の心拍数などをシート埋め込み式のセンサーで測ったり、車の窓を映像投影用の画面として活用したりすることなどを想定。「30年を見据えて技術を開発する」(石井克政社長)と中長期の戦略を描く。
“メガサプライヤー”と呼ばれるドイツ勢は、自動運転技術の高度化に向けて着々と手を打つ。独ボッシュは4月、独ダイムラーと運転手の操作が不要な「レベル4」の完全自動運転車の共同開発で提携。20年代初めの市場投入を目指す。
独コンチネンタルは6月、自動運転車開発で「BMW・インテル連合」に参加することを決定。独ZFも自動運転車向けのセンサーを手がける企業を相次ぎ買収している。トヨタグループ各社は今後、自動運転向け技術でトヨタ以外への提案力が試される。
(文=名古屋・杉本要)
アイシン精機はグループ6社で共同出展。モーターを一つ搭載するハイブリッド車(HV)向けの変速機や電気式四輪駆動車(4WD)の駆動ユニットの新製品を初公開する。2020年頃の実用化を目指すパーソナルモビリティー「ILY―Ai」も展示する。
豊田自動織機は世界シェア43%を握るカーエアコン用コンプレッサー事業をメーンに展示。電動コンプレッサーの将来モデルも出展する。トヨタ紡織は主力のシートを中心に未来の車室空間を提案。人の体形に応じてシート形状が変わる車室「VODY」や、完全自動運転時代を想定して自在なシート配置を実現する車室「MOOX」など、二つの模型を初展示する。
豊田合成は20年頃の電動車両を想定し、車のハンドルやインストルメントパネル(インパネ)などをまとめた「次世代コックピットモジュール」を出展。30年頃をイメージし、電気の力で動く次世代ゴムを使った車両「FlesbyII」も初めて公開する。
ジェイテクトは電気信号によるタイヤ制御システム「ステアバイワイヤ(SBW)」と車輪内蔵モーター「インホイールモーター(IWM)」を初披露する。両技術を車両モジュール「フューチャー・コンセプト・ビークル=写真」に搭載して出展する。
SBWは、電子制御によりドライバーのハンドル操作を車輪に伝える仕組み。車速や車両姿勢に応じて操舵角制御することで、運転の安全性や快適性を向上させる。
また、車輪近くにモーターを配置するIWMでは、左右輪の駆動力配分などを制御して、横滑り防止能力を高める。このほか、仮想現実(VR)技術を使って、同社の自動運転対応技術を体感できるコーナーも設ける。
日刊工業新聞2017年10月11日
「最も大きな課題はシステムの消費電力」
デンソーやアイシン精機などトヨタ自動車グループ各社が、2020年前後に完全自動運転車向けの技術や製品をそろって市場投入する。トヨタは20年頃に高速道路で、20年代前半には一般道で自動運転車の実用化を目指しており、部品メーカーも技術基盤を固める。各社はシステムの提案力を高めてトヨタ自動車以外にも売り込む考えで、連携の仕方によっては将来のグループ再編につながる可能性もある。
デンソーは9月、自動運転用の半導体IP(知的財産)の設計・開発を担う新会社を設立する。狙いは、自動運転時に前方に障害物が飛び出してきた時の回避など「とっさの判断」に必要とされる高性能半導体の実用化だ。
新会社「エヌエスアイテクス」は、「DFP」(データフロープロセッサー)と呼ぶ新しい構造のプロセッサー(処理装置)を開発し、半導体メーカーにライセンス販売する。
現在の主流であるCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理演算装置)と比べ、大量の演算処理には向かない半面、複数の演算処理を柔軟に組み立てることができ、効率的に計算できるという。量産化は20年代前半の予定だ。
自動運転車向けの半導体では米エヌビディアが大きな注目を集める。GPUによる大量処理に強みを持っており、5月にはトヨタとの協業も発表した。
一方、米インテルは自動運転向けシステムを担うイスラエルのモービルアイを約1兆8000億円で買収すると決定。21年の発売を視野に、独BMWと完全自動運転車を開発中だ。米クアルコムも16年に約5兆円を投じ、自動運転用半導体に強いオランダのNXPの買収を決めた。
攻勢を強める海外勢に対し、デンソーも真っ正面から立ち向かう。既に東芝と画像認識用の人工知能(AI)の共同開発などを進めており、自動運転の「判断」用の半導体としてDFPを使うことを想定する。
新見幸秀エグゼクティブアドバイザーは「我々はエヌビディアやインテルなどの技術を採用する側で、脅威とは考えていない」としつつ、DFPの提供で「彼らの不得意な領域を埋める」ことを狙う。
例えば、自動運転時に前を走るバスが停留所に止まり、右にレーンを変えるとする。この時、GPUは車両から見て全方向に演算処理をかけるのに対し、デンソーが開発するDFPは左前方など関係のない方向の計算をやめられる。
これにより全体の計算量を少なくし、発熱や消費電力を抑制。DFPの消費電力は「一般的なGPUの10分の1以下」(デンソー)としている。
車載半導体の消費電力低減という課題は自動運転車の前に立ちはだかる大きな壁。爆発的に増える情報処理量への対応がネックになっている。
トヨタの自動運転車を開発する米トヨタ・リサーチ・インスティテュートのギル・プラット最高経営責任者(CEO)も「現在の最も大きな課題はシステムの消費電力」と話す。
自動運転の「知覚」「認知」「判断」の部分をデンソーが担うなら、「神経」や「筋肉」に当たる部分を突き詰めるのがアイシン精機やジェイテクト、トヨタ紡織などだ。
アイシン精機は、変速機やブレーキといった従来強みを持つ製品群を束ね、車両運動を統合制御する技術や、全自動駐車(自動バレー駐車)システムの開発を進める。自動バレー駐車は20年代前半の市場投入を目指す。
藤江直文副社長は「我々の技術の中核は駆動部品やアクチュエーターなど実際にクルマを動かす部分。上位の入力系統がどんなに変わっても、我々のシステムで指令を受けてクルマを安全に動かす」と語る。
アイシンはハードウエアを極める一方、出遅れがちだったソフトウエア開発も強化。5月、東京・台場に人工知能(AI)の開発拠点を新設した。ハードを動かす電子制御ユニット(ECU)やアルゴリズムの開発を強化する。
電動パワーステアリング(EPS)で世界シェア最大手のジェイテクト。20年をめどにハンドル操作を電気信号でタイヤに伝える「ステアバイワイヤ(SBW)」を量産化する方針だ。
SBWは既に一部市販車に採用されているが、開発中の製品は自動運転を強く意識。ハンドルとシャフトの機械的なつながりを一切なくした「リンクレスSBW」も25年をめどに実用化する。
シートを主力とするトヨタ紡織は、自動運転車両の普及に備え、車室内での過ごし方そのものの提案活動を強化している。具体的には、搭乗者の心拍数などをシート埋め込み式のセンサーで測ったり、車の窓を映像投影用の画面として活用したりすることなどを想定。「30年を見据えて技術を開発する」(石井克政社長)と中長期の戦略を描く。
“メガサプライヤー”と呼ばれるドイツ勢は、自動運転技術の高度化に向けて着々と手を打つ。独ボッシュは4月、独ダイムラーと運転手の操作が不要な「レベル4」の完全自動運転車の共同開発で提携。20年代初めの市場投入を目指す。
独コンチネンタルは6月、自動運転車開発で「BMW・インテル連合」に参加することを決定。独ZFも自動運転車向けのセンサーを手がける企業を相次ぎ買収している。トヨタグループ各社は今後、自動運転向け技術でトヨタ以外への提案力が試される。
(文=名古屋・杉本要)
日刊工業新聞2017年8月18日