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異色のバイオベンチャー「ちとせバイオ」、経営手法は“大企業と協業”

創業15年で時価総額100億円
 生物の培養・育成技術を持つ「ちとせバイオエボリューション」(ちとせバイオ)が、異色とも思える経営スタイルで成長を遂げている。バイオ燃料、健康食品、医療分野に技術を提供し、創業から15年で時価総額100億円、約90人の従業員を抱える企業群となった。本社はシンガポールに置き、マレーシアや中国など6カ国から研究者が集まる。環境ベンチャー成功の秘訣(ひけつ)を探った。

協業が経営手法


 IHIは2017年11月、航空機用バイオ燃料を生産する実験設備をタイに設置すると発表した。ちとせバイオの中核会社「ちとせ研究所」は10年代前半から、藻類の増殖でIHIに協力してきた。大企業との協業が、ちとせバイオの経営手法となっている。

 「環境ベンチャーは資金集めのために無理な目標を掲げてしまう。我々は無理を言わない。地に足を付けている」。ちとせバイオの藤田朋宏最高経営責任者(CEO)は、はっきりと言い切る。

 高度なリサイクル、高効率発電など、新技術を開発して起業する会社は多い。しかし、事業化には工場建設などで資金が必要となる。ベンチャーキャピタルから出資を募ろうと、高すぎる目標を示すと失敗する。

 目標を当てにしたベンチャーキャピタルは、期待した配当を得ようと経営に介入してくる。ベンチャー企業は早期配当の圧力に押され、目先のもうかる事業に走る。技術の優位性を失い、市場で埋没してしまう。

苦い体験


 ちとせバイオにも苦い体験がある。00年代前半、前身の会社は“バイオベンチャーブーム”に乗って資金が集まった。しかし同年代後半、倒産の危機に見舞われた。外資系コンサルティング会社から転職した藤田社長は、ベンチャーキャピタルから出資を引き上げてもらった。

 その後、大企業を頼った。開発テーマを提案し、次々と研究を受託。大企業から研究資金を得て経営基盤である生物関連技術に磨きをかけた。大企業も研究成果を認めると事業化を決断し、プラント建設の資金を出してくれる。IHIとの事業が好例だ。他にも健康食品、イチゴ栽培など、受託研究が資金を呼び込み、事業化に到達する事業モデルで復活した。

 11年、グループ事業を統括する「ちとせバイオエボリューション」をシンガポールに設立した。同国はアジアのハブであり、「いろいろな場所にすぐに行き、ビジネスの話ができる」(藤田社長)と、日本にはないスピード感を実感している。

地に足付ける


 海外進出という異例の道を進むが、研究をおろそかにしない。今でも企業や国から年15−16件の研究を受託している。地に足を付けている証左だ。

「ちとせ」の社名は、サステナビリティー(持続可能)に通じる。「事業を1000年後にも残したい。誰かに引き継げる事業をつくりたい」とビジョンを語る。
(松木喬)
日刊工業新聞2018年2月15日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
大企業であっても環境技術は事業になるまで時間がかかります。そもそも事業化を断念し、研究をやめていることが多いです。また技術系・製造業系ベンチャーは成長に時間がかかります。環境ビジネスもしくは環境系ベンチャーをどうやって育てるのか。ちとせのパターンが一つの答えと感じ、記事を書きました。

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