総合商社トップ、稼ぐ戦略を語る
丸紅・国分文也社長
―2016―18年の中期経営計画を5月に修正しましたが、経営課題にどのように取り組みますか。
「認識している課題は、バランスシートの強化だ。他商社に比べて遅れており、D/Eレシオが1・18倍と、1倍を超えている。キャッシュフローの拡大と債務返済を進め、18年には1倍程度に下げたい。また、米国の農業化学品事業など、非資源分野を中心とした注力分野の事業は、まだ道半ばというのが決算にもはっきり出ているので、地道にやっていく」
―農業化学品分野における戦略は。
「肥料や農業資材の販売を手がける米ヘレナケミカルは、一部の事業を、穀物子会社の米ガビロンと連携し、効果も出ている。両社については、もう一段、オペレーションを効率化できる。また、ヘレナケミカルのビジネスモデルを南米や欧州など、他の地域に広げたい。特にブラジルは農業関連の市場が低調で、M&Aのチャンスなので、農家向けの販売網を押さえたい。欧州では英国とフランスでやっているが、規模が小さいので、M&Aで事業を広げたい」
―13年に買収した米穀物会社のガビロンの収益拡大には現状、何が必要でしょうか。
「ガビロンはリストラが一段落した。今後は、ブラジルの穀物サイロ子会社テルログなど、他事業と、どのように一体感を出すかが課題となる」
―4月に立ち上げたIoT・ビッグデータ戦略室における取り組みの進捗(しんちょく)は。
「社内で、IoTを活用したビジネスモデルや業務改善のアイデアを100件程度集め、その中から10数件を選んで助成金を出し、一部で実証実験が始まっている」
「これまでは事業部門ごとに、縦に進化してきたが、IoTなど技術革新が進み、今までと違う発想が出てきている中で、商品基軸だけで考えていると、本当のニーズをすくい上げることができなくなる。各部門がもつ情報を結びつけ、組織を横断的にどう束ねていくのか、ギアを上げて取り組む必要がある。IoT以外の切り口でも、横の連携ができるような部署が必要だと考えている」
【記者の目/非資源分野中心に攻勢】
丸紅は5月に中計を修正し、財務基盤強化を鮮明にした。他の大手商社は業績拡大の波に乗って事業投資を進めており、守備的な印象も受けるが、「財務の立て直しは短期で仕上げられる。17年半ばからは次の種まきにも軸を移している」と国分社長。電力や農業化学品など、非資源分野を中心に攻勢の準備も進める。
双日・藤本昌義社長
―2017年の経営環境と、これを踏まえた18年の目標は。
「資源価格の高騰もあり、今期は全体的にどの事業も良く、順調だ。今後も世界経済は緩やかに成長し、大きく環境が変わることはないとみている。業績は常に右肩上がりを意識しているので、18年は最低でも、前年比10%くらいは上げていきたい」
―業績拡大に向け、力を入れる事業領域は。
「強いところを、より強くしていく。航空機事業では、日本の代理店となっている米ボーイングと、グローバルでのパーツアウト事業を検討している。自動車事業では、独BMWのディーラー事業を米国、ブラジル、大阪で手がけ、関係が出来つつあるので、アジアを中心に世界に広げていきたい」
「また、ベトナムでコンビニ事業を展開しているが、リテール事業を東南アジアで広げたい」
―15―17年度の中期経営計画では、3年間で3000億円を投資する計画ですが、次の中計で投資額は増えるのでしょうか。
「フリーキャッシュフローを黒字にするという規律をもって投資する。収益が上がればフリーキャッシュフローは増えるが、極端に大きくなることはない。次の中計においても、投資規模は同じくらいになると考えている」
―資源価格が高騰し、石炭・金属事業は好調ですが、今後、資源への投資が増える可能性はありますか。
「資源事業はトータルの資産は増やさないので、おのずと、非資源事業への投資が増える。自動車や電力は、各事業部門から次の投資案件がどんどん上がってくるので、淡々と判断していく」
「一方、東南アジアのリテール事業に投資しなければと考えているが、事業部門から、なかなか案件が上がってこないので、出すように指示していく」
―人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)など、技術革新をどのように事業に取り込んでいきますか。
「例えば、肥料の販売事業では、IoTを活用し、農業の最適化ができれば、収益性を高められる可能性がある。AI、IoTについては、全体を見渡せる部署を作ることも検討している」
【記者の目/投資成果の刈り取り課題】
双日は15―16年度の投資が1570億円に止まり、計画の遅れを指摘されていた。だが、17年4―9月期で電力などの案件に900億円を投資。一気に計画達成が見えるところまで来た。次の中計では投資成果の刈り取りも課題となる。
住友商事、社長交代へ
住友商事は2018年4月1日付で、兵頭誠之専務執行役員(58)が社長に昇格し、中村邦晴社長(67)が代表権のある会長に就く人事を決めた。大森一夫会長(69)は相談役に退く。中村社長は後任社長の選出について、「指名・報酬諮問委員会で社長としての資質を備え、将来を託すのにふさわしい人物を、1年半かけて議論した」とした。
兵頭氏は電力部門の出身で、インドネシアのタンジュン・ジャティB石炭火力発電所のプロジェクトでは、アジア通貨危機による中断などを乗り越え、完成させた。「AIやIoTなど、技術革新の動きにアンテナを付け、新しいビジネスへの先行投資をやっていく」と抱負を述べた。
≪次期社長、兵藤氏の素顔≫
学生時代、大学院で研究をしながら「自分の生きる道は研究室でなく、外に出て、いろんな人と交わること」と思い立ち、教授の反対を押し切って、商社の門をたたいた。
最初の海外赴任は入社5年目のヨルダン。発電所建設の現場所長を任され、2年後に帰国すると、赴任直前に生まれた娘は3歳になっており、「抱っこしたら、知らないおじさんだと思われて泣かれた」と、商社マンらしいエピソードで笑いを誘う。
中村社長は兵頭氏を社長にふさわしい資質の一つとして「胆力がある」ことを挙げる。自らも「しつこい性格。こうと決めたら諦めない」と分析する。度重なる苦難の末に実現した、インドネシアのタンジュン・ジャティB石炭火力発電所は、現在6号機まで拡張が進み、住友商事の電力事業の礎ともなっている。まさに兵頭氏の「胆力」のたまものだ。家族は妻と1男1女。(文=高屋優理)
【略歴】兵頭誠之氏 84年(昭59)京都大学大学院工学研究科修了、同年住友商事入社。15年常務執行役員、17年専務執行役員。愛媛県出身。