総合商社トップ、稼ぐ戦略を語る
資源価格下落による業績悪化から一転、市況が持ち直し、好業績が続く大手商社。背景には、非資源事業を強化するなど、資源だけに頼らず、市況に左右されない事業基盤を作ってきた成果も見て取れる。資源価格の高騰が続く中、投資計画に方向転換はあるのか、今後の戦略を、大手商社のトップに聞いた。
―2018年3月期の業績予想は当期利益5000億円と、商社としては過去最大となりますが、その要因は。
「食料や自動車、電力、不動産など、基本的に全てが順調で、マイナスになっているものがない。これまでに市況の影響を受ける船舶など、リスクの見合いで整理してきた。市況で変動する事業も残っているが、いずれも生産コストに連動する優良な資産で、市況悪化でマイナスになるレベルにはない」
「足を引っ張っていた事業は縮小し、手堅く経営している事業が軌道に乗ってきて、積み上がっている。各事業で何をすれば業績が上げられるか、経営の観点から見えてきているものが多くなっている」
―どのような事業が軌道に乗ってきているのでしょうか。
「サーモン養殖事業のセルマックは、最初の2年間は市況の低迷など、困難があった。だが、ノルウェー、チリ、カナダの3カ所の拠点で、ノウハウや情報を共有してうまく連携し、生産や販売で補完しあうことで、3年目に入り、ようやく軌道に乗ってきた」
―業績を維持、拡大するための戦略は。
「強くなる分野をさらに強くする。例えば複合的な都市開発では、鉄道や航空、オフィスビル、病院など、複数の事業部門に横串を入れるような案件が出てきている。このほか、強みのある既存事業である、ガスと電気を組み合わせることで、複合的なビジネスモデルができる。強い事業同士を掛け合わせて、さらに強いビジネスを作っていきたい」
―資源価格が回復する中で、これまで抑えてきた資源事業への投資があるのか、今後の投資の方向性は。
「例えば全体で1兆円のキャッシュフローがあれば、事業系7割、市況系3割程度に振り分けるというのが基本的な考え方。毎年コンスタントに投資するのではなく、良い案件があれば、3年分まとめて投資することもあるし、逆に3年でも5年でも動かない可能性もある。今後、案件次第で資源事業への投資もあるが、投資の比重は、あくまで事業系に置いている」
【記者の目/グループ連携、さらなる高みへ】
三菱商事は全体の事業ポートフォリオを、市況に影響を受ける度合いで「市況系」と「事業系」に分類している。資源に強いと言われる三菱商事だが、利益の割合では、およそ市況系が3割、事業系が7割と、赤字転落後の事業改革の成果がすでに出ている。今後は、縦割りと言われる商社において、グループ間の連携を強化し、さらなる高みを目指す。
―2017年は資源高もあり商社の業績が好調で、株価も上昇しています。
「18年3月期は15―17年の中期経営計画で最終年度となるが、想定を超える良い年だった。中計の策定時は、当期利益4000億円は難しいかと思っていたが、今期は間違いなく超える見通しだ。株価も、史上最高値を何度も更新し、悲願だったムーディーズの格付けがA格に昇格するなど、こんなにいいことが重なることはめったにない」
―次の中期経営計画では、どのような事業分野に注力しますか。
「今、世界で伸びている米国や中国の企業は、アマゾンやグーグル、アップルなど、商社とは接点のないところばかりだ。これまでの延長線では、今の時代を切り開いている企業とのビジネスは生まれない。商社にとって、過去の経験が生かせず、非常に難しい時代になっている。その中で、我々は生活消費関連の事業に強みを生かし、中国におけるネット通販で、リアルの店舗との融合を図るなど、新たなビジネスモデルを作っていこうと考えている」
―15年に提携した中国の国営企業、CITICとは、どのような分野での協業を目指しますか。
「10月の共産党大会まで中国企業はナーバスだった。だが、今は雰囲気が変わってきて、以前から検討してきた案件が、ここにきて、動きだしている。CITICは国営企業なので、協業は、国民のためになる事業であるということが重要になる。アリババなど大手企業と接点を見つけながら、決済関連やネット関連の事業を展開したい」
―中国で事業を展開する上でのメリットとデメリットは。
「中国は日本のような規制があまりないので、事業は非常にやりやすい。企業はルールに縛られずにビジネスができる。また、中国は建設でもITでも、上物や仕組みを作るのは得意だが、中身は雑だ。ネット通販も素晴らしいシステムはあるが、本当に欲しいものは売っていない。消費者が本当に欲しい商品をどのように売るか、そこに商機があるので、パートナーを見つけて事業を広げる」
【記者の目/IT企業といかに接点作る】
今、世界で覇権を握っているIT関連の企業は、日本の大手商社と、ほとんどビジネスがない。商社でも人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)など、技術革新を取り入れる機運が高まっているが、次の時代のビジネスを考える上で、こうした企業とどのように接点を作るかが、勝敗を分けるポイントになりそうだ。
―2018年3月期は過去最高益を見込むなど、業績は好調です。
「18年3月期は当期利益4000億円を見込んでいるが、資源価格が想定以上に堅調なので、上振れが期待できる。ただ、18年は鉄鉱石や原油の市況が弱含みとみていて、非資源分野を中心とした、市況の下振れがない事業を収益基盤として強化していく」
―非資源分野ではどの事業に力を入れますか。
「注力分野は機械・インフラ、化学品、ヘルスケアなどで、機械・インフラは電力、モビリティー、鉄道など、18年はさまざまな事業で、着実に収益に貢献してくる。モビリティーについては、電気自動車(EV)やシェアリングなど、市場の変化を捉えて、ビジネスやサービスを考える必要があり、危機感を持ってやっていかなくてはいけないと考えている」
―非資源分野の事業における課題は。
「非資源分野の投資は先行投資が多く、事業としての収益化には時間がかかっている。ただ、市場の成長性が高く、資産としての価値は上がっていて、含み益にはなっている。今はキャッシュにはならないが、売却のタイミングではなく、資産を積み上げる時期で、成長する案件に確実に投資していることを、きちんと分かってもらうようにしないといけない」
「事業ポートフォリオの中で、市況にさらされる割合は高いが、非資源分野の当期利益は、1600億円を超えるところまできている。今期は一過性の損益が多く、わかりにくくなっているが、市況が下がっても、純利益で3600億―3700億円は出せる力がある。非資源分野の成長が収益に結びついており、着実に力が付いている」
―資源価格が堅調な中、資源事業への投資計画に影響はありますか。
「資源開発は予測不能なことが起こるので、案件ごとの収益性を正確に判断するには、継続してマーケットにさらされている必要がある。資源ビジネスは骨格だが、量よりも競争力が大事で、常に中長期的な見通しをもちながら、投資も考えていく」
【記者の目/資源以外のインパクト大きく】
三井物産は18年3月期に資源事業で大きな株式評価益を計上した一方、農業関連事業では損失を出した。一過性の損益が大きく、実力が読みにくいが、ここまで積み上げてきた非資源分野の収益の割合は、約4割まで上がっている。資源事業のイメージが根強い中で、非資源のインパクトも大きくなっている。
<次のページ、丸紅・双日・住友商事はトップ交代>
三菱商事・垣内威彦社長
―2018年3月期の業績予想は当期利益5000億円と、商社としては過去最大となりますが、その要因は。
「食料や自動車、電力、不動産など、基本的に全てが順調で、マイナスになっているものがない。これまでに市況の影響を受ける船舶など、リスクの見合いで整理してきた。市況で変動する事業も残っているが、いずれも生産コストに連動する優良な資産で、市況悪化でマイナスになるレベルにはない」
「足を引っ張っていた事業は縮小し、手堅く経営している事業が軌道に乗ってきて、積み上がっている。各事業で何をすれば業績が上げられるか、経営の観点から見えてきているものが多くなっている」
―どのような事業が軌道に乗ってきているのでしょうか。
「サーモン養殖事業のセルマックは、最初の2年間は市況の低迷など、困難があった。だが、ノルウェー、チリ、カナダの3カ所の拠点で、ノウハウや情報を共有してうまく連携し、生産や販売で補完しあうことで、3年目に入り、ようやく軌道に乗ってきた」
―業績を維持、拡大するための戦略は。
「強くなる分野をさらに強くする。例えば複合的な都市開発では、鉄道や航空、オフィスビル、病院など、複数の事業部門に横串を入れるような案件が出てきている。このほか、強みのある既存事業である、ガスと電気を組み合わせることで、複合的なビジネスモデルができる。強い事業同士を掛け合わせて、さらに強いビジネスを作っていきたい」
―資源価格が回復する中で、これまで抑えてきた資源事業への投資があるのか、今後の投資の方向性は。
「例えば全体で1兆円のキャッシュフローがあれば、事業系7割、市況系3割程度に振り分けるというのが基本的な考え方。毎年コンスタントに投資するのではなく、良い案件があれば、3年分まとめて投資することもあるし、逆に3年でも5年でも動かない可能性もある。今後、案件次第で資源事業への投資もあるが、投資の比重は、あくまで事業系に置いている」
【記者の目/グループ連携、さらなる高みへ】
三菱商事は全体の事業ポートフォリオを、市況に影響を受ける度合いで「市況系」と「事業系」に分類している。資源に強いと言われる三菱商事だが、利益の割合では、およそ市況系が3割、事業系が7割と、赤字転落後の事業改革の成果がすでに出ている。今後は、縦割りと言われる商社において、グループ間の連携を強化し、さらなる高みを目指す。
伊藤忠商事・岡藤正広社長
―2017年は資源高もあり商社の業績が好調で、株価も上昇しています。
「18年3月期は15―17年の中期経営計画で最終年度となるが、想定を超える良い年だった。中計の策定時は、当期利益4000億円は難しいかと思っていたが、今期は間違いなく超える見通しだ。株価も、史上最高値を何度も更新し、悲願だったムーディーズの格付けがA格に昇格するなど、こんなにいいことが重なることはめったにない」
―次の中期経営計画では、どのような事業分野に注力しますか。
「今、世界で伸びている米国や中国の企業は、アマゾンやグーグル、アップルなど、商社とは接点のないところばかりだ。これまでの延長線では、今の時代を切り開いている企業とのビジネスは生まれない。商社にとって、過去の経験が生かせず、非常に難しい時代になっている。その中で、我々は生活消費関連の事業に強みを生かし、中国におけるネット通販で、リアルの店舗との融合を図るなど、新たなビジネスモデルを作っていこうと考えている」
―15年に提携した中国の国営企業、CITICとは、どのような分野での協業を目指しますか。
「10月の共産党大会まで中国企業はナーバスだった。だが、今は雰囲気が変わってきて、以前から検討してきた案件が、ここにきて、動きだしている。CITICは国営企業なので、協業は、国民のためになる事業であるということが重要になる。アリババなど大手企業と接点を見つけながら、決済関連やネット関連の事業を展開したい」
―中国で事業を展開する上でのメリットとデメリットは。
「中国は日本のような規制があまりないので、事業は非常にやりやすい。企業はルールに縛られずにビジネスができる。また、中国は建設でもITでも、上物や仕組みを作るのは得意だが、中身は雑だ。ネット通販も素晴らしいシステムはあるが、本当に欲しいものは売っていない。消費者が本当に欲しい商品をどのように売るか、そこに商機があるので、パートナーを見つけて事業を広げる」
【記者の目/IT企業といかに接点作る】
今、世界で覇権を握っているIT関連の企業は、日本の大手商社と、ほとんどビジネスがない。商社でも人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)など、技術革新を取り入れる機運が高まっているが、次の時代のビジネスを考える上で、こうした企業とどのように接点を作るかが、勝敗を分けるポイントになりそうだ。
三井物産・安永竜夫社長
―2018年3月期は過去最高益を見込むなど、業績は好調です。
「18年3月期は当期利益4000億円を見込んでいるが、資源価格が想定以上に堅調なので、上振れが期待できる。ただ、18年は鉄鉱石や原油の市況が弱含みとみていて、非資源分野を中心とした、市況の下振れがない事業を収益基盤として強化していく」
―非資源分野ではどの事業に力を入れますか。
「注力分野は機械・インフラ、化学品、ヘルスケアなどで、機械・インフラは電力、モビリティー、鉄道など、18年はさまざまな事業で、着実に収益に貢献してくる。モビリティーについては、電気自動車(EV)やシェアリングなど、市場の変化を捉えて、ビジネスやサービスを考える必要があり、危機感を持ってやっていかなくてはいけないと考えている」
―非資源分野の事業における課題は。
「非資源分野の投資は先行投資が多く、事業としての収益化には時間がかかっている。ただ、市場の成長性が高く、資産としての価値は上がっていて、含み益にはなっている。今はキャッシュにはならないが、売却のタイミングではなく、資産を積み上げる時期で、成長する案件に確実に投資していることを、きちんと分かってもらうようにしないといけない」
「事業ポートフォリオの中で、市況にさらされる割合は高いが、非資源分野の当期利益は、1600億円を超えるところまできている。今期は一過性の損益が多く、わかりにくくなっているが、市況が下がっても、純利益で3600億―3700億円は出せる力がある。非資源分野の成長が収益に結びついており、着実に力が付いている」
―資源価格が堅調な中、資源事業への投資計画に影響はありますか。
「資源開発は予測不能なことが起こるので、案件ごとの収益性を正確に判断するには、継続してマーケットにさらされている必要がある。資源ビジネスは骨格だが、量よりも競争力が大事で、常に中長期的な見通しをもちながら、投資も考えていく」
【記者の目/資源以外のインパクト大きく】
三井物産は18年3月期に資源事業で大きな株式評価益を計上した一方、農業関連事業では損失を出した。一過性の損益が大きく、実力が読みにくいが、ここまで積み上げてきた非資源分野の収益の割合は、約4割まで上がっている。資源事業のイメージが根強い中で、非資源のインパクトも大きくなっている。
<次のページ、丸紅・双日・住友商事はトップ交代>