利用者にも設置テナントにも喜ばれる授乳室を手掛けるベンチャー
【連載】挑戦する地方ベンチャー Trim(神奈川県横浜市)
赤ちゃんと出かける時、お母さんたちが特に気を遣っている問題の1つに「授乳」がある。おむつ交換台は普及が進んできたが、授乳室や授乳スペースはまだまだ数が足りていない。授乳用の目隠しケープをかけて授乳したり、授乳スペースがある場所にしか出かけない、といったお母さんも多いという。
2015年11月に起業した「Trim」はそんなお母さんたちの不便さを解消するソリューションを提供するベンチャーだ。今年7月にコンパクトで設置が容易なスマートナーシングルーム「mamaro」を開発した。海外では授乳室のことをナーシングルームと呼ぶが、mamaroは授乳やおむつ替えだけにとどまらず、赤ちゃんを泣きやませたり、寝かせたり、さまざまな活用ができる。また、女性だけでなく男性も利用できることも大きなポイントだ。従来の授乳室の多くは女性専用だが、mamaroを使えば男性も外出先でミルクをあげることができ、育児への参加が叫ばれる現代に沿った商品だといえるだろう。デザインも男女問わず使えるシンプルさを特に意識した。
さらに「スマート」と銘打っている技術が、スマートフォンとの連携とセンシングにある。もともと授乳室やおむつ交換台の場所が検索できる「Baby map」というアプリを運営し、29か国で提供していた同社。その経験を生かし、mamaroの設置場所や利用状況を参照できるアプリを開発した。さらに室内にはセンサーを搭載し、赤ちゃんの体温を測定できる。これでmamaroを利用するたびに赤ちゃんの健康状態の記録をしたり、将来的には、病気が疑われる場合には室内に設置したモニターにアドバイスを表示したり、医療機関と連携することも考えている。
社長の長谷川裕介氏は、授乳室の設置が進まない理由に「商業施設としては設置する効果が見えないこと」があると話す。「商業施設を運営する10数社に、授乳室がどう利益につながっているかなどをヒアリングしたところ、ほとんどわかっていませんでした。さらにテナントに貸せば利益が出るスペースを授乳室にすることで利益化できないという状況も生まれています」。顧客満足度を上げるために高い費用をかけて授乳室を作っても、利用した客が商業施設に利益を還元しているかの見える化はできていないのが現状だ。それでも最近では授乳室をつくり込むデパートも増えてきたが、カーテンで仕切られただけだったり、ベビーカーですぐに利用しにくい2階以上にあったり、人気の授乳室には長蛇の列ができていたり、不便さはぬぐえない。
mamaroはそんな設置側の悩みも解決できる。180cmの幅と90cmの奥行があれば設置可能で、組み立てるだけなので大規模な工事も必要ない。キャスターが付いており、運搬も容易。天井が空いているので完全な個室ではなく、空調や消防法で定められたスプリンクラーなどの設備も不要となっている。
さらにブース内のディスプレイでコンテンツや広告を掲載し、クーポンを配布することも予定している。「お母さんに密にコミュニケーションしていけるPR媒体として機能していけるかなと考えています」。広告収益はオーナーや導入施設にレベニューシェアで返すことによって、「お金が生まれる授乳室」として機能するようになるという。利用状況は設置施設にフィードバックされるので、効果の見える化が可能だ。
1台150万での販売だが、メインはリース契約。約5年リースであれば月2万円ほどで、広告収益と相殺以上になることを予想している。商業施設の「オーパ」や京急ストアなど、12月には6社に導入、8台が設置される。
長谷川社長はTrimを立ち上げる前、医療系ベンチャーで新規事業に取り組んでいた。Baby mapもそのベンチャーがスタートしたサービスだ。しかし上場を目指すにあたりポートフォリオを整理することになり、Baby mapの運営がストップしてしまう。「医療系ベンチャーに入ったきっかけが、母をガンで亡くした経験からでした。自分の母にはもう恩返しはできないけれど、これを残すことで次の世代のお母さんたちに恩返しできる、無くしちゃいけないなと。そこで直談判して買い取り、Trimを立ち上げました」。
Baby mapを運営していて見えてきたのが、授乳室をとりまく問題だった。その問題を解決するためのmamaro開発にあたってはたくさんのお母さんたちにインタビューをしたという。しかし「重要なのはサイレントマジョリティーがどう感じているか。これを利用者からアンケートを取りデータとして計測して、使いやすいものを提供していきたい。大きい声だけ拾っちゃうと実際に救うべき人たちを救えないことにもなるので」と長谷川社長は話す。
今後は海外展開も積極的に考えており、特に中国は有力視している。「一人っ子政策もやめ、政府が母乳で育てることを奨励しています。子育てビジネスは可能性が大きいと思います」。現在は日本で行っているmamaroの生産も中国へ委託できないか模索中だという。
もちろん日本での設置も拡大していく。全国に店舗展開する小売業や商業施設をターゲットにする。モニターやセンサーなどのmamaroに搭載されたノウハウのみを既存の授乳室に外販することも計画。「どの企業も子育てに対する意識が高まっているが、どうすればいいかが見えていない現状がある。我々が『HOW』の部分を提供していきたい」。
※文中の掲載価格は2017年11月現在のものであり、販売価格が異なる場合があります。
男性も使えるコンパクトな授乳室
2015年11月に起業した「Trim」はそんなお母さんたちの不便さを解消するソリューションを提供するベンチャーだ。今年7月にコンパクトで設置が容易なスマートナーシングルーム「mamaro」を開発した。海外では授乳室のことをナーシングルームと呼ぶが、mamaroは授乳やおむつ替えだけにとどまらず、赤ちゃんを泣きやませたり、寝かせたり、さまざまな活用ができる。また、女性だけでなく男性も利用できることも大きなポイントだ。従来の授乳室の多くは女性専用だが、mamaroを使えば男性も外出先でミルクをあげることができ、育児への参加が叫ばれる現代に沿った商品だといえるだろう。デザインも男女問わず使えるシンプルさを特に意識した。
さらに「スマート」と銘打っている技術が、スマートフォンとの連携とセンシングにある。もともと授乳室やおむつ交換台の場所が検索できる「Baby map」というアプリを運営し、29か国で提供していた同社。その経験を生かし、mamaroの設置場所や利用状況を参照できるアプリを開発した。さらに室内にはセンサーを搭載し、赤ちゃんの体温を測定できる。これでmamaroを利用するたびに赤ちゃんの健康状態の記録をしたり、将来的には、病気が疑われる場合には室内に設置したモニターにアドバイスを表示したり、医療機関と連携することも考えている。
テナントにも利益を
社長の長谷川裕介氏は、授乳室の設置が進まない理由に「商業施設としては設置する効果が見えないこと」があると話す。「商業施設を運営する10数社に、授乳室がどう利益につながっているかなどをヒアリングしたところ、ほとんどわかっていませんでした。さらにテナントに貸せば利益が出るスペースを授乳室にすることで利益化できないという状況も生まれています」。顧客満足度を上げるために高い費用をかけて授乳室を作っても、利用した客が商業施設に利益を還元しているかの見える化はできていないのが現状だ。それでも最近では授乳室をつくり込むデパートも増えてきたが、カーテンで仕切られただけだったり、ベビーカーですぐに利用しにくい2階以上にあったり、人気の授乳室には長蛇の列ができていたり、不便さはぬぐえない。
mamaroはそんな設置側の悩みも解決できる。180cmの幅と90cmの奥行があれば設置可能で、組み立てるだけなので大規模な工事も必要ない。キャスターが付いており、運搬も容易。天井が空いているので完全な個室ではなく、空調や消防法で定められたスプリンクラーなどの設備も不要となっている。
さらにブース内のディスプレイでコンテンツや広告を掲載し、クーポンを配布することも予定している。「お母さんに密にコミュニケーションしていけるPR媒体として機能していけるかなと考えています」。広告収益はオーナーや導入施設にレベニューシェアで返すことによって、「お金が生まれる授乳室」として機能するようになるという。利用状況は設置施設にフィードバックされるので、効果の見える化が可能だ。
1台150万での販売だが、メインはリース契約。約5年リースであれば月2万円ほどで、広告収益と相殺以上になることを予想している。商業施設の「オーパ」や京急ストアなど、12月には6社に導入、8台が設置される。
次世代のお母さんたちに恩返しを
長谷川社長はTrimを立ち上げる前、医療系ベンチャーで新規事業に取り組んでいた。Baby mapもそのベンチャーがスタートしたサービスだ。しかし上場を目指すにあたりポートフォリオを整理することになり、Baby mapの運営がストップしてしまう。「医療系ベンチャーに入ったきっかけが、母をガンで亡くした経験からでした。自分の母にはもう恩返しはできないけれど、これを残すことで次の世代のお母さんたちに恩返しできる、無くしちゃいけないなと。そこで直談判して買い取り、Trimを立ち上げました」。
Baby mapを運営していて見えてきたのが、授乳室をとりまく問題だった。その問題を解決するためのmamaro開発にあたってはたくさんのお母さんたちにインタビューをしたという。しかし「重要なのはサイレントマジョリティーがどう感じているか。これを利用者からアンケートを取りデータとして計測して、使いやすいものを提供していきたい。大きい声だけ拾っちゃうと実際に救うべき人たちを救えないことにもなるので」と長谷川社長は話す。
今後は海外展開も積極的に考えており、特に中国は有力視している。「一人っ子政策もやめ、政府が母乳で育てることを奨励しています。子育てビジネスは可能性が大きいと思います」。現在は日本で行っているmamaroの生産も中国へ委託できないか模索中だという。
もちろん日本での設置も拡大していく。全国に店舗展開する小売業や商業施設をターゲットにする。モニターやセンサーなどのmamaroに搭載されたノウハウのみを既存の授乳室に外販することも計画。「どの企業も子育てに対する意識が高まっているが、どうすればいいかが見えていない現状がある。我々が『HOW』の部分を提供していきたい」。
※文中の掲載価格は2017年11月現在のものであり、販売価格が異なる場合があります。
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