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約2300年の歴史を持つ阿蘇神社の修復、その難しさとは

宮大工「一つずつ地道に」
約2300年の歴史を持つ阿蘇神社の修復、その難しさとは

地震でバラバラになった阿蘇神社の楼門

 約2300年の歴史を持つ阿蘇神社(熊本県阿蘇市)。6棟が国の重要文化財(重文)に指定されているが、熊本地震によりいずれも損壊した。特に被害が大きかったのが、日本3大楼門の一つと言われる楼門だ。屋根部分は形をとどめたが、柱などがすべて倒壊し、つぶれた格好となった。

楼門を解体


 清水建設が楼門の解体、調査と他の重文5棟の部分解体、修理を手がけている。楼門については雨風をしのぐ素屋根を設け、2017年1月から上層の屋根部分の解体を開始。現在までに上層部分の解体を終え、下層部分に取りかかっている。

 「基本的に部材はすべて再利用する」。阿蘇神社の解体・修理で、工事主任を務める清水建設の川原裕貴さんは、重文の部材の取り扱いについて、こう説明する。

 全倒壊した楼門では「2次崩壊しないように上の方から部材を取り除いてきた」(川原氏)と慎重に作業を進めてきた。解体した部材を一つ一つ確認。すべてに番号をつけて境内の倉庫に保存し、再建に備える。

 再建時に可能な限り元の部材を活用するため、傷んだ部分を取り除き、同じ種類の木材を接着して修復する。長年風雨にさらされ風化した部材と色を合わせるため、修復部分は天然由来の材料で色を付ける。

バラバラの部材


 壊れてバラバラになった部材も、形状や色などを見比べ、組み合わせできるように順番に並べ、再利用に向け整理する。

 実際の作業は、社寺仏閣の建設や復元・修復で実績のある藤田社寺建設(福井県永平寺町)の6人の宮大工が行っている。棟梁(とうりょう)の與那原幸信さんは、長年の経験でも「ここまで壊れたものは見たことない」と語る。

 楼門の解体では、これまで1万個以上の部材を取り出し、作業は7割程度完了した。ただ、下層部分は損壊がひどく元の姿をとどめていない。

ジグソーパズル


 部材を一つ一つ確認しながら取り除き、復元に向け整理するのは、ジグソーパズルをつくる作業のようだ。與那原さんは「最後の段階でものすごく難しくなった」と漏らす。

 楼門は1850年(嘉永3年)に建てられ、設計図面はない。だが、柱の位置や化粧材の組み合わせなど、伝統建築物に特有の構造や意匠から、部材の使われていた箇所を特定する。與那原さんは「一つずつ地道にやっていく」と説明する。

 現場を指揮する川原さんは「これまでに前例がない作業。当社が神社・仏閣など文化財の仕事で培ってきたノウハウを生かしたい」と大きなヤマ場を迎え、気を引き締めている。
日刊工業新聞2017年10月13日
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
美術品の復元といって良いレベル。ただ、建築物なので見た目や形だけでなく、建築強度などを満たした上で元の姿を取り戻すということでしょうから、美術品とはまた違うすごさがあります。解体にしても、再利用前提なので相当の苦労があると想像します。文化を残していくことは、技術も残していくということなのだと感じます。

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