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知名度が低かった古河電工の車載レーダー、「CX-5」に初採用されて一変

異業種ならではの知見生かす。足元の生産量は当初想定の2倍
知名度が低かった古河電工の車載レーダー、「CX-5」に初採用されて一変

古河ASが開発したパルス方式採用の準ミリ波レーダー

 古河電気工業の車載レーダー事業が好調だ。マツダが2月に発売した主力スポーツ多目的車(SUV)「CX―5」に初採用されたのを機に、足元で当初想定比2倍の生産量で推移する。歩行者や自転車など車の周辺にある対象物を高精度に認識できるのが特徴で、通信インフラ事業で培った技術を生かして製品化に結びつけた。既存事業の枠を超え、グループが一丸となって自動車関連事業の拡大を目指す。

 「古河電工さんが車のレーダーをつくっているなんて知らなかった、と言われた」。レーダーの開発を主導した子会社の古河AS(神奈川県平塚市)の板橋茂樹技術開発4部部長は、1月の車載レーダー量産開始当初、取引先が示した反応についてこう振り返る。古河電工グループは、車向けはこれまでワイヤハーネスサプライヤーのイメージが強かったからだ。

 古河ASが開発したのは「準ミリ波レーダー」と呼ぶミリ波レーダーの一種で、車の周辺を監視し衝突事故を防ぐ自動運転や運転支援システム(ADAS)に欠かせない部品だ。一般的な準ミリ波レーダーは周波数24ギガヘルツ帯を使って連続的に電波を送り、送信波と反射波の時間差から対象物との距離や相対速度を割り出し、危険回避につなげている。

 ただ同方式の場合、同じような位置に車や歩行者など複数の対象物があるとガードレールなど反射波の強い物体に他の物体の反射波が埋もれやすく、特に歩行者の検知がしづらい課題があった。

 これに対し、古河ASは電波を断続的に送るパルス方式を車載レーダーに世界で初めて採用。強い反射波の影響を受けずに、対象物を個別かつ正確に認識できるようにした。車から1メートル以内の近距離にある対象物の検知も可能だ。

 通信インフラ事業などで培った信号伝送や高周波技術を応用するなど、車部品を専業にする競合他社にはない異業種ならではの知見を生かしたことがパルス方式採用の高機能レーダー開発につながった。マツダ「CX―5」や派生車種の後方監視用として採用後、順調に生産を伸ばし、三重県内の工場はフル稼働が続いている。

 古河電工は成長が見込める自動車関連事業を拡大する中期経営計画を掲げている。主力のワイヤハーネスとともに、電子部品の拡販で計画を達成する考えで「車載レーダーはキーデバイスの一つ」(坂井範秀古河電工執行役員)と位置付ける。

 車載レーダーは今後、交差点での衝突事故を防ぐため、車前方の左右両側にも採用されるようになるなど車1台当たりに搭載する数が増え、市場が拡大する見通し。古河電工はこうした動きを踏まえ、20年度をめどに認識能力をさらに高めた新型を量産する考え。同時期に車載レーダー事業の売上高を100億円規模にする。
販売好調のマツダ「CX-5」

(文=下氏香菜子)
日刊工業新聞2017年10月6日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
また車関連事業強化の一環で、17年度からはグループ各社で分かれていた車向け部品の提案窓口を一本化し、ワイヤハーネスと電子部品をシステム化して提案する体制を整えた。開発・販売の両面でグループが一体となり、車事業を今後の成長ドライバーにする。 (日刊工業新聞第一産業部・下氏香菜子)

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