アラミド繊維、王者デュポンと帝人に忍び寄る新勢力
韓国・中国メーカーが虎視眈々
メタ系、競争激化。高機能品の需要高まる
一定の生産技術を持つ韓国メーカーの活発な事業展開が目立ち、中国メーカーも設備投資に積極的だ。中韓メーカーの動きに対して「過剰供給になり、値崩れにつながらなければよいが」と危惧する声が上がり始め、需要家を奪われる懸念を抱く関係者も増えた。
ただ、これらアジア勢の販売先は自国が中心で、欧米や日本市場への輸出は限定的。パラ系は自動車タイヤやブレーキなど消費者の安全に直接関わる製品に多く使われ、これらを生産する欧米企業が開発途上にあるアジア勢の製品の採用に慎重なことも影響している。
当面は欧米や日本市場における過剰供給は考えにくく、足元の1キログラム当たり2000―4000円の販売価格が続く公算は大きい。
帝人は向こう数年以内にオランダ工場でパラ系の「トワロン」の生産能力を10―20%引き上げる方針を固め、ボトルネックとなっていた紡糸設備の工程改善に着手したもようだ。得意の欧州市場を中心にさらに拡販する戦略で、一連の設備投資額は約20億円とみられる。
日本市場でデュポンのパラ系「ケブラー」を製造販売する東レ・デュポン(東京都中央区)は5月、東海事業場(愛知県東海市)に最新の撚糸機や引っ張り試験装置などを備える技術センターを開所。需要家との共同研究を加速し、拡販につなげる狙いだ。ケブラーを使った摩擦材や樹脂複合材料の試作、評価設備の導入も検討しているとみられ、新たな用途開拓にも力を注ぐ方針だ。
トップランナーのデュポンや帝人のパラ系は、量産品でも物性にバラつきがないなど高品質が売りだ。タイヤメーカーや繊維の二次加工メーカーなどと、高品質のパラ系を使った製品開発を拡大し、その優位性を認識してもらうことが、新興勢力から市場を守るカギになる。
メタ系アラミド繊維市場はパラ系よりもアジア勢の参入が激しく、熾烈(しれつ)な競争が続く。パラ系が強度や弾性の高さを特徴とするのに対し、メタ系は難燃性や長期耐熱性、耐薬品性などに優れる。
欧米や日本を中心に防火服の素材として販売されるほか、バグフィルター(集塵機に取り付ける袋状フィルター)の材料にも広く使われる。
メタ系の首位はデュポンで、シェアは60%を超えるとみられる。これを中国メーカーや帝人、韓国メーカーが追う格好で、特にアジア勢の攻勢が目立つ。メタ系はパラ系に比べて価格を抑えた汎用品の販売が伸びており、生産コストも低く抑えられる。
これを新興国が有望な投資対象とみていることがアジア勢の活発な動きの背景にある。中でも使い捨てのバグフィルターは高品質の繊維が必要なく、デュポンと中国メーカーの争いが激しさを増す。
(文=小野里裕一)
日刊工業新聞2017年9月27日