資源を持たない日本の重要な切り札、インフラ輸出と経済外交
文=清水建設代表取締役会長・宮本洋一
**世界各地でトップセールス
急速に経済発展を進めている新興国を中心に、世界中に膨大なインフラ需要が存在する。日本政府はインフラ輸出が我が国に、持続的な成長をもたらすと期待を寄せる。安倍晋三首相をはじめとする政府首脳は、民間企業トップを同行し世界各地でトップセールスを展開。私自身も同行する機会をいただいている。
インフラは、都市交通や港湾などの経済インフラから、ダム・発電所などのエネルギーインフラ、上下水道・病院・学校などの生活インフラまで多岐にわたる。こうしたインフラ輸出は、資源を持たない我が国にとって、経済外交の重要な切り札ともなる。相手国の発展に直接的に寄与し、日本のプレゼンスを顕在化させることが期待されている。そのためには、相手国政府、特に国民に、「日本が、インフラを造って協力してくれている」ということを見える形で認識してもらう必要がある。
現在、インフラ輸出の柱となっている我が国の政府開発援助(ODA)では、原則として、無償資金協力案件については参画業者を日本企業とするが(タイド案件)、円借款(有償)案件については、日本の特定の技術が必要な場合を除き、国際競争入札(アンタイド案件)としている。結果として、価格が安い国の企業が受注するケースが多くなる。日本の資金協力により実現するインフラプロジェクトの現場に、日本の国旗を立てられないのでは、経済外交として不十分で、我が国建設業の一社として歯がゆく思う。
経済協力開発機構(OECD)のアンタイド勧告の流れがあるが、経済外交という意味で現地国民に日本の援助であることを「見える化」することが大切である。欧米などはタイド案件の比率が高いという情報もあり、日本においても多くのタイド案件化に期待したい。
一方で、インフラ整備は価格の安さだけではないことをアピールしなければならない。昨年8月、アフリカの開発をテーマとする日本主導の国際会議・TICAD(アフリカ開発会議)VIがナイロビで開催され、安倍首相はスピーチの中で、インフラの「質」と「人材育成」の重要性を訴えた。単に価格だけでなく、日本の仕事の質、例えば耐久性、工事中の安全・環境対策、そして相手国の人材育成などを総合的に判断してもらうことが必要だ。また、その重要性を相手国政府にご理解いただくとともに、各国のインフラ整備計画のお手伝いもしていかなければならない。そのためには、官民が一体となり、質の高いインフラを支える我が国の技術や経験について持続的かつ積極的に情報発信する。そして、ライフサイクルコスト、環境、防災、健康にも配慮した質の高いインフラの建設を通じて技術移転を図るとともに、質がもたらす恩恵を相手国の人たちに享受してもらう。それが持続可能な開発に向けた、長いようであるが、確実な道のりだと考える。
また、TICADVIにおいては、アフリカ諸国は日本の援助だけではなく、開発の対等なパートナーを志向し、投資を期待するという声もあった。ODAもさることながら、特に投資を伴う案件は、内戦やテロなどの治安、不透明な商取引などの政治・社会システムへの対応など、民間企業だけでは克服し難いリスクが伴う。法律などの制度インフラ整備の支援やプロジェクト用の戦争保険の整備、内戦・テロに日本企業が直面した際の迅速な邦人保護など、国レベルの対応がより望まれる。
TICADVIの成果を受けて、国交省の主導で、昨秋、「アフリカ・インフラ協議会」が設立され、会長職を拝命した。この協議会でも経済外交に資する活動を展開したい。アフリカに限らず、インフラ輸出という官民一体の経済外交の一翼を、微力ではあるが担えればと思う。
【略歴】みやもと・よういち 71年(昭46)東大工卒、同年清水建設入社。耐震営業推進室長、執行役員北陸支店長、常務執行役員九州支店長、専務執行役員営業担当などを経て、07年に社長就任。16年4月から現職。東京都出身、69歳。
急速に経済発展を進めている新興国を中心に、世界中に膨大なインフラ需要が存在する。日本政府はインフラ輸出が我が国に、持続的な成長をもたらすと期待を寄せる。安倍晋三首相をはじめとする政府首脳は、民間企業トップを同行し世界各地でトップセールスを展開。私自身も同行する機会をいただいている。
インフラは、都市交通や港湾などの経済インフラから、ダム・発電所などのエネルギーインフラ、上下水道・病院・学校などの生活インフラまで多岐にわたる。こうしたインフラ輸出は、資源を持たない我が国にとって、経済外交の重要な切り札ともなる。相手国の発展に直接的に寄与し、日本のプレゼンスを顕在化させることが期待されている。そのためには、相手国政府、特に国民に、「日本が、インフラを造って協力してくれている」ということを見える形で認識してもらう必要がある。
質高いインフラ輸出で勝負
現在、インフラ輸出の柱となっている我が国の政府開発援助(ODA)では、原則として、無償資金協力案件については参画業者を日本企業とするが(タイド案件)、円借款(有償)案件については、日本の特定の技術が必要な場合を除き、国際競争入札(アンタイド案件)としている。結果として、価格が安い国の企業が受注するケースが多くなる。日本の資金協力により実現するインフラプロジェクトの現場に、日本の国旗を立てられないのでは、経済外交として不十分で、我が国建設業の一社として歯がゆく思う。
経済協力開発機構(OECD)のアンタイド勧告の流れがあるが、経済外交という意味で現地国民に日本の援助であることを「見える化」することが大切である。欧米などはタイド案件の比率が高いという情報もあり、日本においても多くのタイド案件化に期待したい。
一方で、インフラ整備は価格の安さだけではないことをアピールしなければならない。昨年8月、アフリカの開発をテーマとする日本主導の国際会議・TICAD(アフリカ開発会議)VIがナイロビで開催され、安倍首相はスピーチの中で、インフラの「質」と「人材育成」の重要性を訴えた。単に価格だけでなく、日本の仕事の質、例えば耐久性、工事中の安全・環境対策、そして相手国の人材育成などを総合的に判断してもらうことが必要だ。また、その重要性を相手国政府にご理解いただくとともに、各国のインフラ整備計画のお手伝いもしていかなければならない。そのためには、官民が一体となり、質の高いインフラを支える我が国の技術や経験について持続的かつ積極的に情報発信する。そして、ライフサイクルコスト、環境、防災、健康にも配慮した質の高いインフラの建設を通じて技術移転を図るとともに、質がもたらす恩恵を相手国の人たちに享受してもらう。それが持続可能な開発に向けた、長いようであるが、確実な道のりだと考える。
日本企業活動の基盤整備
また、TICADVIにおいては、アフリカ諸国は日本の援助だけではなく、開発の対等なパートナーを志向し、投資を期待するという声もあった。ODAもさることながら、特に投資を伴う案件は、内戦やテロなどの治安、不透明な商取引などの政治・社会システムへの対応など、民間企業だけでは克服し難いリスクが伴う。法律などの制度インフラ整備の支援やプロジェクト用の戦争保険の整備、内戦・テロに日本企業が直面した際の迅速な邦人保護など、国レベルの対応がより望まれる。
TICADVIの成果を受けて、国交省の主導で、昨秋、「アフリカ・インフラ協議会」が設立され、会長職を拝命した。この協議会でも経済外交に資する活動を展開したい。アフリカに限らず、インフラ輸出という官民一体の経済外交の一翼を、微力ではあるが担えればと思う。
【略歴】みやもと・よういち 71年(昭46)東大工卒、同年清水建設入社。耐震営業推進室長、執行役員北陸支店長、常務執行役員九州支店長、専務執行役員営業担当などを経て、07年に社長就任。16年4月から現職。東京都出身、69歳。