12万円の扇風機も。家電、万人受けからの脱却

メーカー各社、SNSで消費者の深層心理を深掘り

 家電メーカー各社が消費者の緻密なニーズを汲み取るため、SNSなどを活用したマーケティング戦略を展開している。日本のメーカーは高度な機能を付加することを得意としているが、オーバースペックと指摘されることが多い。消費者の心をつかむ製品の開発に向け、SNSなどで消費者との接点を増やし最適な解を求めようとしている。各社の戦略を追った。

 凜(りん)とした佇(たたず)まい―。パナソニックは室内の装飾品としても遜色がない超高級扇風機「リント」を販売している。消費税抜きのオープン価格は12万円前後。一般的な扇風機の10倍以上の値段だ。

 長年、デザインについては大きな変化がなかった扇風機だが、消費者のアンケートなどでは、最も足りない要素としてデザイン性が挙げられていた。そうしたニーズに応え、リントは高級感があふれる焦げ茶色の木目調デザインを採用。扇風機の概念を覆す商品として期待されている。

 この扇風機の需要はどこにあるのか。土井鴻樹リビング商品課空質商品係担当は「高級旅館やホテルなどに使用されている。品が良く、高級感がある空間作りに役立つ」と話す。従来の扇風機とは異なり、送風だけでなく空間の演出に使用されるのだ。実際に使用するホテルや旅館では「高級な室内装飾品が並ぶ部屋に溶け込んでいる」としており、好評という。

 こうした製品作りを行う前提としては、あらかじめ狙うべき消費者や市場に対し、ニーズの根底を浮き彫りにする必要がある。パナソニックは製品購入後のアンケートだけでなく、製品の開発段階や販売の前段階など細かく分けて対面調査を実施する。さらに製品の利用者や実際の購入者など対象を細分化することで、ニーズとのズレを修正している。

ターゲット明確に「機能」追わず


女性社員のみで構成するチームで製品開発(三菱電機)

 三菱電機は、さまざまな世帯へのマーケティングに力を注ぎ、仕事と家事を両立する女性の世帯に着目。単身の女性を対象とした冷蔵庫「MR-CX27C」を開発し、10月に発売する。営業担当8人と技術担当2人の女性社員のみで構成するチームが製品開発を担った。こうした取り組みは同社では初めてという。

 働きながら家事を行う女性が主導して開発することで、日々の生活で使う機能を取捨選択し絞り込んだ。単身向けに最低限の機能に抑えつつ、収納レイアウトなど取り出しやすい構造を採用した。一方、少量でも多様な食材を収容できるように、鮮度を保つ「氷点下ストッカー」など大型冷蔵庫向けの機能をあえて搭載した。

 女性チーム関係者は「消費者目線に迫るべく、企画段階から自身の生活感を意識した」と強調する。画一的なアンケート結果に依存する従来手法では、とうてい生まれない製品だ。

 三菱電機に限らず、家電各社は消費者アンケート以上に信頼できる情報を探る動きを活発化している。特に重視しているのがインターネット上の情報。一部のメーカーはSNSを利用し、消費者との接点を増やそうとしている。

 東芝ライフスタイル(川崎市川崎区)は冷凍冷蔵庫「VEGETA(べジータ)」で、ツイッターアカウントを作成した。ツイッター上でリツイートや返信などの反響をチェックし、実際の使われ方や意見を商品設計の参考にしている。アカウントをフォローし料理写真を投稿すれば、旬の野菜や果物をプレゼントするキャンペーンを実施しており、消費者にとってもメリットがある。

製品に“特徴”生み出す


 一方、小泉成器(大阪市中央区)の取り組みは、より能動的だ。動画投稿サイト「ユーチューブ」で、動画を投稿するユーチューバーに動画紹介を促し、理美容向け家電などを宣伝する。その内容は企業側の一方的なPRではなく、使用状況について是々非々でコメントしており、動画を閲覧する消費者も“生の声”として受け入れやすい。「動画で紹介して頂くことは歓迎している」(小泉成器)と考えており、SNSの宣伝力をフルに活用する構えだ。

 開発担当者らは動画の反応を見ることで、開発のヒントを得る場所にもなるという。小泉成器の田中裕二社長は「ネット戦略を強化しており、ネット向け製品の専用オプションなどインセンティブも検討する」と語る。

 ただ各社ともマーケティングに対し、SNSを本格的に利用するまでには至っていないとされる。コンサルティング会社のジェイ・エム・アール生活総合研究所(東京都千代田区)の松田久一社長は「将来、SNSなどネット上の行動はマーケティングにおいて重要な要素となる」と分析する。ネット上の多様な意見をうまく分類し解析できれば、特徴的な製品作りも可能という。
                 

(文=渡辺光太)

日刊工業新聞2017年8月14日

日刊工業新聞 記者

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08月27日
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これまで日本の家電は、価格に見合った確かな性能が支持されてきた。ただ、大多数の消費者を狙った中庸的な製品が主流であり、より緻密な要求に対応できていなかった。家電が普及した今、万人受けする製品ではなく、消費者一人ひとりに最適なモノづくりが求められている。そのためには消費者の深層心理を深掘りするマーケティング戦略が重要となる。
(日刊工業新聞第一産業部・渡辺光太)

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