次はトースターで革命を狙うバルミューダ社長の「勝負魂」

「個人のポップな感覚は変えられない。ダメだと評価されたら時代と合わなかっただけだ」(寺尾玄)

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「グリーンファン」で扇風機市場に革命を起こした
 「扇風機はデザインも格好悪くすぐ壊れる。でもそれは問題の本質ではない」―。寺尾玄社長は既存の家電メーカーが作る製品にずっと不満を抱いていた。一番の欠点は涼しくないこと。従来の扇風機は風が強すぎて当たり続けられない。だから首を振る構造。「この風を変えることができたら本当のブレークスルーになる」。

 2010年に発売した「グリーンファン」は、羽根が二重構造で空気を拡散、自然な風を作り出す。2万―3万円と扇風機にしては破格の価格帯だが品薄になるほど大ヒットした。販路は量販店、専門店、カタログ、自社を含むネット通販サイト。バランス良く供給するのが小さい会社がのしあがるカギという。「省エネルギーで人の熱い寒いを解決する」のが事業の機軸。昨年秋には空気清浄機を販売、次は世界市場に目を向け始めている。

 寺尾社長の経歴は異色だ。茨城の不良上がりで高校を中退。ロックスターを本気で目指していたが、28歳の時にバンドを解散した。「会社はバンド。ミュージシャンの時と今もやっていることは同じでツールが違うだけ」。誰かに褒められたい、認められたくて制作活動をしているという。

 だから「やさしい風」も数値ではなく、考える立脚点は人文科学の視点。「お客さまが感じる心地よさ、おいしさ、面白さは感じた時に初めて価値になる」。音楽経験者らしい言葉が随所に出てくる。しかし寺尾社長は自分の価値と消費者の価値を安易に一致させることはしないという。

 まず自分のやりたいことをとことんやる。「個人のポップな感覚は変えられない。それでダメだと評価されたら自分が烙印(らくいん)を押されたのではなく、時代と合わなかっただけ」と割り切る。大衆性を引き出す手法は、大手の家電メーカーと正反対だ。

 これまで順風満帆ではなかった。一番の危機はグリーンファンの発売前。事業は何をやってもダメ。開発に没頭し会社を倒産させようと思っていたという。ところが予想以上に出来の良い試作品ができた。しかし金型代と初期の量産ロット3000台には6000万円の資金がいる。懇意にしていた専業ブラシレスモーター会社の社長に融資を直談判。了承をもらった時にポケットには600円しかお金が残っていなかった。

 製品がヒットしたうれしさよりも、のるかそるかの勝負に勝ったことが人生の誇り。「世界に貢献したい」という信念を貫くため株主は社長1人で、これからもそれを変える気はない。
 20年後の企業ビジョンを温めているがそれは非公表。「最近はそれで世界が変わるかもしれないと本気で思い始めている」。ロックの血が騒ぐ大勝負はまだまだありそうだ。
 
 <プロフィル>
 寺尾玄(てらお・げん)バルミューダ代表取締役
 1973年生まれ。17歳の時に高校を中退。欧州やアフリカへ放浪の旅に出る。帰国後、音楽活動を開始。大手レーベルと契約もしたが2001年にバンドを解散。若いころにアップルのMacとアーロンチェアという二つの製品に魅せられモノづくりの道を志す。独学と工場への飛び込みで設計、製造を習得。2003年、バルミューダデザイン(現バルミューダ)を自己資金20万円で設立。当初はコンピューター周辺機器を手掛けていた。2010年に発売した高級扇風機「グリーンファン」がヒットし、一躍有名になる。

日刊工業新聞2013年04月10日 モノづくり面

COMMENT

明豊
デジタルメディア局
局長

寺尾さんに最初にお会いたのが3年前。経歴だけを見ると破天荒な人生だが、モノづくりに対しはとても真摯な姿勢と思考を持っている。当時、メイカームーブメントがメディアを賑わしていたが、「話半分に聞いておいた方がいい」と冷ややかだったのが印象的。

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