ピッチ早まる自動運転の開発競争、トヨタグループ各社の足並みはそろったか
20年前後に完全自動運転車向け一斉投入、グループ再編の可能性も
デンソーやアイシン精機などトヨタ自動車グループ各社が、2020年前後に完全自動運転車向けの技術や製品をそろって市場投入する。トヨタは20年頃に高速道路で、20年代前半には一般道で自動運転車の実用化を目指しており、部品メーカーも技術基盤を固める。
デンソーは9月、自動運転用の半導体IP(知的財産)の設計・開発を担う新会社を設立する。狙いは、自動運転時に前方に障害物が飛び出してきた時の回避など「とっさの判断」に必要とされる高性能半導体の実用化だ。
新会社「エヌエスアイテクス」は、「DFP」(データフロープロセッサー)と呼ぶ新しい構造のプロセッサー(処理装置)を開発し、半導体メーカーにライセンス販売する。
現在の主流であるCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理演算装置)と比べ、大量の演算処理には向かない半面、複数の演算処理を柔軟に組み立てることができ、効率的に計算できるという。量産化は20年代前半の予定だ。
自動運転車向けの半導体では米エヌビディアが大きな注目を集める。GPUによる大量処理に強みを持っており、5月にはトヨタとの協業も発表した。
一方、米インテルは自動運転向けシステムを担うイスラエルのモービルアイを約1兆8000億円で買収すると決定。21年の発売を視野に、独BMWと完全自動運転車を開発中だ。米クアルコムも16年に約5兆円を投じ、自動運転用半導体に強いオランダのNXPの買収を決めた。
攻勢を強める海外勢に対し、デンソーも真っ正面から立ち向かう。既に東芝と画像認識用の人工知能(AI)の共同開発などを進めており、自動運転の「判断」用の半導体としてDFPを使うことを想定する。
新見幸秀エグゼクティブアドバイザーは「我々はエヌビディアやインテルなどの技術を採用する側で、脅威とは考えていない」としつつ、DFPの提供で「彼らの不得意な領域を埋める」ことを狙う。
例えば、自動運転時に前を走るバスが停留所に止まり、右にレーンを変えるとする。この時、GPUは車両から見て全方向に演算処理をかけるのに対し、デンソーが開発するDFPは左前方など関係のない方向の計算をやめられる。
これにより全体の計算量を少なくし、発熱や消費電力を抑制。DFPの消費電力は「一般的なGPUの10分の1以下」(デンソー)としている。
車載半導体の消費電力低減という課題は自動運転車の前に立ちはだかる大きな壁。爆発的に増える情報処理量への対応がネックになっている。
トヨタの自動運転車を開発する米トヨタ・リサーチ・インスティテュートのギル・プラット最高経営責任者(CEO)も「現在の最も大きな課題はシステムの消費電力」と話す。
自動運転の「知覚」「認知」「判断」の部分をデンソーが担うなら、「神経」や「筋肉」に当たる部分を突き詰めるのがアイシン精機やジェイテクト、トヨタ紡織などだ。
アイシン精機は、変速機やブレーキといった従来強みを持つ製品群を束ね、車両運動を統合制御する技術や、全自動駐車(自動バレー駐車)システムの開発を進める。
自動バレー駐車は20年代前半の市場投入を目指す。藤江直文副社長は「我々の技術の中核は駆動部品やアクチュエーターなど実際にクルマを動かす部分。上位の入力系統がどんなに変わっても、我々のシステムで指令を受けてクルマを安全に動かす」と語る。
アイシンはハードウエアを極める一方、出遅れがちだったソフトウエア開発も強化。5月、東京・台場に人工知能(AI)の開発拠点を新設した。ハードを動かす電子制御ユニット(ECU)やアルゴリズムの開発を強化する。
電動パワーステアリング(EPS)で世界シェア最大手のジェイテクト。20年をめどにハンドル操作を電気信号でタイヤに伝える「ステアバイワイヤ(SBW)」を量産化する方針だ。
SBWは既に一部市販車に採用されているが、開発中の製品は自動運転を強く意識。ハンドルとシャフトの機械的なつながりを一切なくした「リンクレスSBW」も25年をめどに実用化する。
シートを主力とするトヨタ紡織は、自動運転車両の普及に備え、車室内での過ごし方そのものの提案活動を強化している。具体的には、搭乗者の心拍数などをシート埋め込み式のセンサーで測ったり、車の窓を映像投影用の画面として活用したりすることなどを想定。「30年を見据えて技術を開発する」(石井克政社長)と中長期の戦略を描く。
(文=名古屋・杉本要)
デンソーは9月、自動運転用の半導体IP(知的財産)の設計・開発を担う新会社を設立する。狙いは、自動運転時に前方に障害物が飛び出してきた時の回避など「とっさの判断」に必要とされる高性能半導体の実用化だ。
新会社「エヌエスアイテクス」は、「DFP」(データフロープロセッサー)と呼ぶ新しい構造のプロセッサー(処理装置)を開発し、半導体メーカーにライセンス販売する。
現在の主流であるCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理演算装置)と比べ、大量の演算処理には向かない半面、複数の演算処理を柔軟に組み立てることができ、効率的に計算できるという。量産化は20年代前半の予定だ。
自動運転車向けの半導体では米エヌビディアが大きな注目を集める。GPUによる大量処理に強みを持っており、5月にはトヨタとの協業も発表した。
一方、米インテルは自動運転向けシステムを担うイスラエルのモービルアイを約1兆8000億円で買収すると決定。21年の発売を視野に、独BMWと完全自動運転車を開発中だ。米クアルコムも16年に約5兆円を投じ、自動運転用半導体に強いオランダのNXPの買収を決めた。
攻勢を強める海外勢に対し、デンソーも真っ正面から立ち向かう。既に東芝と画像認識用の人工知能(AI)の共同開発などを進めており、自動運転の「判断」用の半導体としてDFPを使うことを想定する。
新見幸秀エグゼクティブアドバイザーは「我々はエヌビディアやインテルなどの技術を採用する側で、脅威とは考えていない」としつつ、DFPの提供で「彼らの不得意な領域を埋める」ことを狙う。
例えば、自動運転時に前を走るバスが停留所に止まり、右にレーンを変えるとする。この時、GPUは車両から見て全方向に演算処理をかけるのに対し、デンソーが開発するDFPは左前方など関係のない方向の計算をやめられる。
これにより全体の計算量を少なくし、発熱や消費電力を抑制。DFPの消費電力は「一般的なGPUの10分の1以下」(デンソー)としている。
車載半導体の消費電力低減という課題は自動運転車の前に立ちはだかる大きな壁。爆発的に増える情報処理量への対応がネックになっている。
トヨタの自動運転車を開発する米トヨタ・リサーチ・インスティテュートのギル・プラット最高経営責任者(CEO)も「現在の最も大きな課題はシステムの消費電力」と話す。
自動運転の「知覚」「認知」「判断」の部分をデンソーが担うなら、「神経」や「筋肉」に当たる部分を突き詰めるのがアイシン精機やジェイテクト、トヨタ紡織などだ。
アイシン精機は、変速機やブレーキといった従来強みを持つ製品群を束ね、車両運動を統合制御する技術や、全自動駐車(自動バレー駐車)システムの開発を進める。
自動バレー駐車は20年代前半の市場投入を目指す。藤江直文副社長は「我々の技術の中核は駆動部品やアクチュエーターなど実際にクルマを動かす部分。上位の入力系統がどんなに変わっても、我々のシステムで指令を受けてクルマを安全に動かす」と語る。
アイシンはハードウエアを極める一方、出遅れがちだったソフトウエア開発も強化。5月、東京・台場に人工知能(AI)の開発拠点を新設した。ハードを動かす電子制御ユニット(ECU)やアルゴリズムの開発を強化する。
電動パワーステアリング(EPS)で世界シェア最大手のジェイテクト。20年をめどにハンドル操作を電気信号でタイヤに伝える「ステアバイワイヤ(SBW)」を量産化する方針だ。
SBWは既に一部市販車に採用されているが、開発中の製品は自動運転を強く意識。ハンドルとシャフトの機械的なつながりを一切なくした「リンクレスSBW」も25年をめどに実用化する。
シートを主力とするトヨタ紡織は、自動運転車両の普及に備え、車室内での過ごし方そのものの提案活動を強化している。具体的には、搭乗者の心拍数などをシート埋め込み式のセンサーで測ったり、車の窓を映像投影用の画面として活用したりすることなどを想定。「30年を見据えて技術を開発する」(石井克政社長)と中長期の戦略を描く。
(文=名古屋・杉本要)
日刊工業新聞2017年8月18日