3つのアジア高速鉄道、実績を一つでも作りたいチーム日本
“官民一体” で攻勢強める
可能性が高いシンガポール―マレーシア
激しい国家間の受注競争の中で日本が獲得する可能性が高いとみられているのが、シンガポール―マレーシア間の高速鉄道プロジェクトだ。
住友商事が幹事となり、JR東日本、三菱重工業、日立製作所の4社による日本連合で受注を目指している。17年中にも入札が行われる見通しで、受注を狙い中国、韓国、欧州などとつばぜり合いを演じている。
同プロジェクトは総延長約350キロメートル。中間駅に停車せず、時速350キロメートルで走行し区間内を1時間半で走行する短い路線だ。
だが、二つの国をまたぐ同路線をめぐっては、シンガポール、マレーシアの思惑が交錯。車両や地上設備の保有と運営を分ける上下分離方式を採用する見通しだが、建設主体はシンガポール側とマレーシア側で分かれることになりそうだ。
また、中間駅の6駅は全てマレーシア国内にあるため、マレーシア側が各駅停車の路線を運行。直通路線をシンガポール側が運行するなど、運行事業者も分かれる見通し。
年末にも入札が公示されると言われているが、2国間の足並みがそろわないため条件がなかなかまとまらず、時期がジリジリと後ろ倒しになっている。
現状、17年末の入札公示後、18年末から19年初めに落札者が決まり、26年に運行を開始する計画。ただ、事業化に向けては流動的な部分が多々残されている。
三つのプロジェクトで最も進捗(しんちょく)が遅れているのがタイだ。タイが進める四つの高速鉄道プロジェクトのうち、バンコク―チェンマイ間の670キロメートルに日本式の新幹線導入が決まっている。
4路線のうち、バンコクから北東に向かうバンコク―ノンカイ間は中国が受注。タイでは二つの路線が重なるルートで線路の共有などを検討していたが、欧州式を採用する中国と日本式の新幹線では技術的な折り合いがつかず、6月に単独の路線となることが決まった。
同プロジェクトは日本コンサルタンツがJICAから受注している事業性調査を17年中に取りまとめる予定。その後、本格的に事業化するかどうかは決まっておらず、タイ次第という状況だ。
日本が高速鉄道の輸出において、一貫して各国にアピールしているのは安全性と定時性だ。これには政府が旗振り役となりながら、車両メーカーや鉄道事業者、商社などが連携する必要があり、日本は官民一体の取り組みを続けてきた。
これまで実績がほとんどないため、コストを重視されるとどうしても不利になり、インドネシアでは受注に失敗した。今後の高速鉄道の輸出拡大のためにも、まず機が熟しているプロジェクトを着実に成功させ、実績を積み上げる必要がある。
(文=高屋優理)
日刊工業新聞2017年08月09日