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日立は“鉄道乱世”の覇者になれるか

英に新工場「日本流モノづくり×IT」で群雄割拠の時代をどう戦う?
日立は“鉄道乱世”の覇者になれるか

日立製作所のIEP向け車両

 日立製作所は海外で初の鉄道車両工場を英国に開設し、2016年から操業を始める。鉄道業界は欧米や中国の企業が世界再編を仕掛ける群雄割拠の時代。日立も海外勢との受注競争や買収抗争に競り勝ち、風雲児ともてはやされる。だが現実には世界の販路に乏しく、事業規模も大手の半分以下だ。鉄道発祥の地・英国で日本流のモノづくりとIT技術を駆使し、乱世の覇者となりうるか。

海外に活路


 日立の鉄道事業は1921年に遡(さかのぼ)る。当時、山口県下松市にあった造船所を改修し鉄道車両の生産を始めた。新幹線などの仕事を手がけて発展したが、路線が全国に網羅されると需要は頭打ちになった。内需依存に危機感を抱いた日立は海外に活路を見いだそうと、大型の更新需要が予定された英国への参入を仕掛けた。

 99年にプロジェクトを始動してから、およそ10年。当初は仏アルストムなど世界大手に負け続けたが、現地に製品を持ち込んで品質や性能の良さをPRし、総事業費1兆円の都市間高速鉄道計画(IEP)で競り勝った。その数、実に866両。これを機に英国工場の建設に踏み切り、海外市場の本格開拓に乗り出した。

 しかも海外では車両の売り切りビジネスではない。車両と保守サービスを一体的に提案しており、IEPでは約27年に及ぶ保守サービスも受注した。長期にわたって収入を得られるほか、顧客との取引も継続するため、新たな商機が生まれる可能性も出てくる。

 保守の技術にはモノのインターネット(IoT)を用いた。電機品や部品の状態をセンサーで常に監視し、故障を未然に防ぐ仕組みだ。列車の遅延や運休を減らせるほか、状態次第では部品交換の時期も延ばせる。日立は最適な時期に部品交換を行うことで、無駄な支出が減り、多くの利益を生み出せる。

保守で稼ぐ


 保守で稼ごうとする秘訣(ひけつ)は、まさにここにある。世界大手は規模で勝るものの、営業利益率は5%前後にとどまる。日立も15年3月期の利益率は4・8%だが、翌期は8・1%を見込んでおり、2ケタの大台突破が現実味を帯びてきた。逆に言えば筋肉質な事業体に変革できるか否かが、日立の鉄道事業の生命線になる。

 世界の鉄道市場は年率3%で成長し「19年には25兆円まで拡大する」(証券会社アナリスト)とされる。欧州では車両の更新需要が堅調なほか、米国では高速車両の整備計画が進む。またインドなど新興国では貨客輸送量や路線が拡大し、需要が膨らんでいる。

 高い成長が期待される中、中国政府は旺盛な外需を取り込もうと6月に国内大手2社を合併。コスト競争力を訴えて欧米に進出し始めた。また足元では独シーメンスとカナダのボンバルディアも鉄道部門の合併に向けて接触している。成立すれば世界に商圏を持つ巨大企業が誕生する。

 こうした再編の波に、日立はどう立ち向かうのか。その解の一つがイタリアの鉄道車両・信号会社の買収だ。信号技術や世界的な販路、欧州本土での生産拠点を手中に収め、グローバルトップへの仲間入りを狙う。日立首脳は「欧州規格に適合した製品を我々の戦列に加えられる」と効果を説明する。

事業の象徴


 鉄道は水処理設備や電力設備など都市開発案件と近しく「社会イノベーション事業の象徴」(日立首脳)と位置付ける。シンボルとして海外顧客への訴求力を期待するならば、もっと買収を急いだ方が良い。海外勢は合従連衡の動きが速く、大手は肥大化する傾向にある。シーメンスやボンバルディアが切り離しを検討しているのであれば、両社に秋波を送っても良いはずだ。

 かつて山口県下松市には日立鉱山創業者、久原房之助氏が開設した日本汽船笠戸造船所があった。久原氏は世界的な工業地帯建設を夢見て操業したが、今は日立がその地で鉄道事業トップを目指す。ようやく日本から英国までたどり着き、世界の背中が見えてきたが、目標とする終着駅は遙(はる)か先にある。

 鉄道生産を始めて94年目になる日立は次の100年を見据え、どんな手を打つのか。その野心に世界が注目している。
(文=敷田寛明)

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日刊工業新聞2015年09月04日3面/ 電機・電子部品・情報・通信面
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
ヨーロッパは大都市が乱立し、相互に行き来するには、航空機利用では近すぎる。 そこで日立は内需の期待できない日本から、鉄道事業部門のヘッド・クオーターを鉄道発祥の地英国に移し、海外で初の鉄道車両工場を開設する。英国では、単に鉄道車両を製造、納入するハード面だけでなく、ICTを駆使して車両と保守サービスを一体的に運営するシステムを提供する。 つまりメンテナンス・サービスを引受けることで安定収入を図る。 日立は鉄道事業を成長させるため世界を視野に、例えばシンガポールでは、ハードの車両提供にプラスして、「運行サービス」を行うソフト面まで提供し、万一、アクシデントで鉄道が止まった場合のバス等の代替輸送サービス案までも提示する。 まさしく鉄道など日立のいう「社会イノベーション事業」は、ICTを駆使してソフトからハードまでのシステムを提供し飛躍を図る。

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