がんばる地域のベンチャーエコシステム20事例

中心となる場所があり、中心となる駆動役がいる

 地域経済のイノベーションの担い手としてベンチャー企業の存在感が増してきた。若者の雇用を生み、既存産業に新風を吹き込む新たなエコシステムの構築が期待される。今までは地方などでベンチャーを単体で支援するという自治体は多かったが、エコシステムを作ることに意識が変わってきたところが増えている。  都市でも郊外でも、行政発でも民間発でも、中心となる場所があり、中心となる駆動役がいて、テーマを持って集まった人や企業が連携していくことがエコシステムを形成していく上では不可欠といえるだろう。  まずはサービス業でも飲食店でも、規模は小さくてもいいのでたくさんの企業を集め、起業する人を増やしていくこと。すると次第に地域に「新しいことにチャレンジできる」ポジティブな雰囲気ができはじめる。よそから見ても魅力的に映るようになると、メディアにも取り上げられるようになり話題に上がるように。一段レベルが上がると、面白いプレイヤーが参入するようになる。  「さらにいうと『企業を一定の場所に集める』というのが重要」と話すのは、トーマツベンチャーサポート地域イノベーション事業部長の前田亮斗氏。例えばある県で開業率が増えていったとしても、一つひとつが離れていては盛り上がっている感じが出ない。商店街や廃校など、ある場所にたくさんの起業家が集まっている、となればインパクトがでる。しかしただ集めるだけでは意味がなく、そのコミュニティの方向性を決めることが不可欠。魅力のある人を呼んでくるには、「その場所にいることがクールだ」という雰囲気を持つ場所を作っていく必要がある。  エコシステムを回していくには、中心となる駆動役が重要になる。現状では都市部や民間企業で活躍していた方がUIJターンする例が多い。積み重ねたスキルやネットワークを地域に還元する、という流れだ。その駆動役が次のプレイヤーを呼びこんでくる、という形でエコシステムを形成するイノベーション人材が増えていく。  さらにエコシステムを継続させるためには、関係者がきちんとコミットしつづけることが必要。鶴岡市の取組みは10年継続し上場企業が生まれたが、市長が変わっても毎年支援しつづけている。また、コアメンバーのみの懇話会を定期的に開催している。   その成功事例が山形県鶴岡市だ。バイオテクノロジーというテーマを決め、技術ベンチャーを集めてエコシステムを形成し「バイオを研究するなら鶴岡」という環境を作り上げた。  設定するテーマに関しては、必ずしも元からその地域にあった産業や素材と結びついていなくても構わない。従来の産業が強すぎると外部のものを受け入れられず、新しい挑戦がしづらくなる。いずれにせよ、その地域に一定程度新しいものを受け入れられる素養があることが必要となる。  鶴岡市以外にも、最近になって東北地方で新しい動きが出てきている。もともと東北地方の民族性はクローズドだと言われているが、震災を契機に復興に向けて「開かざるをえない状況」になってきたことも一因だ。  いろいろなプレイヤーが入ってくるようになり、良い流れができてきている。逆に西の方はもともとオープンでよそものを受け入れる地域が多く、着実にエコシステムが形成されつつある。ただ基本的には全国的にまだまだエコシステムが成り立っている地域は少ないのが現状だ。  地方の若者が既存の職業に就かなくなってきていることが人口流出につながっている。若者にとって魅力的な仕事がベンチャーということも多く、誘致を進めているという側面もある。ベンチャー企業は雇用を安定的に生み出すと言われている。  一方で、既存の産業にテクノロジーを取りいれることで効率化、高度化するということも必要であり、その面でもベンチャーの持つテクノロジーが生きてくる。ベンチャーを生み育てることと、既存産業を高めるという両面で考えていく必要がある。  特に一次産業はこれから世代交代でイノベーションが急速に進む可能性があり、ベンチャーとの連携も期待される。「地方創生がより進めば、選ばれる地域と選ばれない地域が確実に出てくるだろう」(前田氏)。  「地方には余白しかない」と前田氏は話す。東京では思いつかないようなイノベーションがたくさん起きる可能性をまだまだ秘めている。  自ら起業し、ヤフーへ会社を売却した経験を持つ八戸学院大学大谷学長が中心となり、市内中心街にIT企業を集積。加えて、「10年で100人の起業家を青森から」輩出することをスローガンに起業家支援を積極的に行い、30人以上が起業している。    地域起こし協力隊の制度を活用した起業家誘致プロジェクト「Next Commons Lab」を実施。地域リソースを活用した10個のビジネステーマを提示し、それに挑戦したい起業家を地域に誘致・集積。遠野市では15人が選抜され、現在活動を行っている。  一般社団法人MAKOTO、INTILAQ東北イノベーションセンター等、震災後に立ち上がった支援機関が複数存在し、社会起業家や女性の起業も盛ん。また、東北大学発の大学ベンチャーも立ち上がっている。  地域に根ざしたベンチャー起業家を育成するプログラム「ドチャベン・アクセラレーター」を実施し、廃校を活用したインキュベーション施設「BABAME BASE」に起業家を集積している。  2001年に慶応義塾大学先端生命科学研究所(先端研)の誘致に成功し、この16年の間で大学発ベンチャーとしてヒューマン・メタボローム・テクノロジー、合成クモ糸の量産技術を開発したSpiberなどのベンチャー企業群を生み出した。これらに加え、「YAMAGATA DESIGN」というベンチャーを中心に地域主導のまちづくりも推し進めている。  筑波大学やつくば市に立地する研究所発のベンチャー企業が多数集積。  渋谷に多くのベンチャー企業が集積。安く入居できるコワーキングスペースが多く、20代前半の若い起業家がしのぎを削る。ピッチイベントやエンジニアの勉強会が頻繁に開かれ、ベンチャー企業で働く人たちの横のつながりが強い。理由は家賃の高騰と再開発が原因となり、渋谷から山手線で3駅の五反田にベンチャー企業が集積する動きもみられる。  起業促進を目的とした産学官民連携コンソーシアム“Mt.Fujiイノベーションエンジン”が中心となり、起業家支援を積極的に実施。「STERRA Yamanashi」というコワーキングスペースを中心に起業家が集積。  カヤックはじめ、ITベンチャーが集積。「カマコンバレー」と呼ぶ地元IT関連企業による地域活性化の活動が行われている。  越前漆器の産地である鯖江市河和田地区にものづくりを志す若者たちが移住。プロダクト開発やリノベーション等を行っている。  ロボット等技術系ベンチャー企業が数多く集積。また、最近は浜松市が積極的にベンチャー企業の誘致に取り組んでおり、市内への集積を推し進めている。  京都駅前や近隣の中京区にベンチャー企業が集積。インキュベーション施設も多く、京都リサーチパークなどのインキュベーション施設に入ってる企業も多い。また、京都大学などの大学も近い。  大阪駅近隣に位置する「大阪イノベーションハブ」を中心に、大阪の中心部大阪(梅田)から繁華街の難波周辺にかけてオフィス街にベンチャー企業が集積。また、最近は淀川の北~新大阪駅にある「にしなかバレー」にもベンチャー企業が集積し始めている。  JR三ノ宮駅付近にベンチャー企業が集中。JR三ノ宮駅に近接したミント神戸14階の「神戸スタートアップオフィス」ではアクセラレーションプログラムを実施している他、シリコンバレーに本拠地を構える500STARTUPSというVCが神戸に進出するなど盛り上がりを見せている。  人口わずか1500人。2008年に「百年の森林構想」を掲げ、その後、若い「よそ者」を積極的に誘致し、林業を中心に10社以上の起業家が誕生。現在では、森林関連以外にも多様なベンチャーや、起業家同士の生態系が生まれている。  「イノベーション立県」の実現というビジョンを掲げ、広島県が「イノベーション・ハブ・ひろしま Camps」を中心市街地に設置。イノベーションを起こす人材や取組を中心部に集積。  人口約1,000人の中山間過疎地域にて、過疎地域特化型起業家育成プログラムを提供。プログラム期間中はシェアハウスを提供し、起業家的人材を誘致・集積している。  福岡市中心部の天神周辺にベンチャー企業が集まっている。また、最近では天神の一等地に位置する旧大名小学校が改装され、福岡市のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」として生まれ変わり、更なる集積が進んでいる。  「宮崎スタートアップバレー」という企業支援団体を中心に、宮崎に「チャレンジしやすい文化を創る」活動が、盛んに行われている。シリコンバレー帰りの地域プロデューサーやベンチャー経営者、元ベンチャー経営者の大学教員など、層の厚いプレイヤーが存在しており、若草通りという中心商店街にベンチャー企業がオフィスを構える他、郊外の廃校をリノベーションし、ベンチャー企業が集積。  「日本一組みやすい自治体」をスローガンに掲げ、1年間でITベンチャー企業を11社誘致。その多くは油津商店街のアーケード内にオフィスを構え、集積している。ITベンチャーに加え、大学生の起業家なども生まれている。

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