伸びているベンチャーで必要な人、いてはいけない人
採用の意外な落とし穴
ベンチャー企業、スタートアップと呼ばれる、創業間もない小さな会社は、上手くいくか上手くいかないか常にギリギリのところで事業を行っている。そのように事業の成長を模索する中で、企業にとって欠かせないのが、一緒に働いてくれる仲間でありメンバーだ。
一緒に苦楽をともにする仲間なので、慎重かつスピード感を持って参画してくれるヒトを求めることになる。無名の自社を目ざとく見つけて、コンタクトを取ってくるような方に悪いヒトがいるわけない、と思うかもしれない。しかし、それだけで採用に結びつけると恐ろしい事態を引き起こす。
最初は、特にその存在自体が目立つということはない。しかし、徐々に徐々に、そのヒトの思想や熱量が、社内の人間へ影響を与え始め、気が付くと取り返しのつかない状況になっているのだ。そして、そのヒト本人がいなくなっても、その毒は直ぐには消えず、社内に残る。
レオス・キャピタルワークス社長の藤野英人さんがそのような事象で興味深い発言をしている。今回はそれをテーマとして書いてみようと思う。
(藤野氏)「成功するプロジェクトとか会社って、神がかったようなイベントやヒトの出会いがあり、あれよあれよという間に大きくなっていく。本当にそういう勢いってある。しかし、逆のケースもあり、やることなすことドツボにはまり、悪循環の渦が巻く時もある。これは、なかなか修正できない」
「その分かれ目は邪気なんです。無邪気なものは奇跡が起きやすく、邪気があるものは大概うまくいかない。無邪気はバカでもあるけど、そういうのはたとえ失敗したってたいした害はない。邪気のある利口ほど手がつけられないものはない。成功しても失敗しても関わった人は不幸になる」
藤野氏のこの話にこそ、小さな組織やベンチャー企業を自負する組織の採用において、最も注視しなければならない気づきがある。つまり、採用者における人選の重要性である。
図説してみよう。このような4象限がある。
頭の良い・悪いというのは、学歴やキャリア、様々な要素から一般的には見られていると思うが、ここではいわゆるシンプルに“頭の回転が早い”と捉えてもらいたい。頭の優劣だけで考えて採用する場合ならば、スキルがある頭の良いヒトの方が良いに決まっている。圧倒的に優のヒトが採用されるはずだ。
ここで、もう一つの軸として、対象事項に対して楽観的に捉えるヒトと、悲観的に捉えるヒトの2つに分ける。よく慎重派や橋を叩いて渡るタイプなどと言われるが、慎重というよりも、「悲観的に捉える」という表現の方がこの場合はより適切だろう。
4つのマスができて、改めてこの表を眺めた時に、最初の話題を思い出し、「邪気がある」・「無邪気である」という2つの比喩表現を「楽観的」・「悲観的」という言葉に対応させると採用すべき順位が見えてくる。
採用すべき順位は以下である。
1―頭が良く、楽観的なヒト
2―頭が悪く、楽観的なヒト
3―頭が悪く、悲観的なヒト
4―頭が良く、悲観的なヒト
頭が良く、楽観的なヒトはもちろん最高だ。そういう方は、逃さず即採用しよう。次に採用したいのは頭が悪くても楽観的なヒトだ。そう。仲間にすると最も危険なのが、[頭が良くて][悲観的な]ヒトなのだ。
[頭が良く、悲観的なヒト](Aさん)を採用する一番の怖さは、周囲への波及効果だ。Aさんのまわりにいる多くのメンバーが、大きな影響を受ける。Aさんの発した何気ない悲観的な憶測を直に受け取るため、そのメンバーは、成功するかしないかギリギリのラインにあるサービスや新機能などを、悲観的に捉えてしまう。Aさんの悲観的な見方や意見が社内に蔓延してしまうのだ。
[頭が悪く、楽観的なヒト]の場合は、ほぼ誰も耳を貸さず、ないしは、耳を貸したとしても、「まあそういう視点もあるかもね」と軽く受け流され、メンバーやスタッフへの影響も非常に軽微で済む。また、仮に失敗しても、ネガティブな感情を引きずらなくて済む。
恐ろしいのは、[頭が良く、悲観的なヒト]はほぼ無自覚であり、悪気は一切ないことである。そのため、ある程度後になってみないと、誰が悪かったのか、その時にどう対処すべきだったのかが分からない。そこで、じっくりとそのヒトの本質を見極めなければならない。いくつかのポイントを紹介しよう。
・社内の主要ポストに転職して直ぐのヒトを当てはめてはいけない
ある程度の期間をともに過ごすことでそのヒト自体の本質が見えてくる。本質が分からないまま、影響力の強い主要ポストに当てはめてしまうと、取り返しのつかないことになる。
また、いきなり部下のような人員を下に付けてはいけない。社内で情報が分断されることとなる。そのため、まずは3~6ヶ月程度、試用期間のようなものを設けて状況を見るのがよいだろう。
・会社の役員だけでなく、複数のメンバーからも、人となりを確認する
立場の違うヒトに対して、発言や姿勢が異なるというのは注意が必要だ。そのため、社内で接点のある複数の立場の方から、そのヒトの情報を集めて、本当に一緒に働ける人かどうかを見極めよう。
SNS内に不平不満や社内の問題をシェアするルームを作り、経営陣の役員に対しての不満や文句の声を上げる環境を生み出す予兆があれば、見逃してはならない。このような予兆や行動は、見つけ次第すぐに対処する必要がある。
たった一人、[頭がよく悲観的なヒト]が加わるだけで、どれほど事業が、そして、ベンチャー企業としての勢いが削がれてしまうか・・・考えただけでも非常に怖い話である。業務への直接的な人員補強という点だけではなく、影響の波及効果まで考えて採用を検討しよう。
(文=山口豪志)
一緒に苦楽をともにする仲間なので、慎重かつスピード感を持って参画してくれるヒトを求めることになる。無名の自社を目ざとく見つけて、コンタクトを取ってくるような方に悪いヒトがいるわけない、と思うかもしれない。しかし、それだけで採用に結びつけると恐ろしい事態を引き起こす。
最初は、特にその存在自体が目立つということはない。しかし、徐々に徐々に、そのヒトの思想や熱量が、社内の人間へ影響を与え始め、気が付くと取り返しのつかない状況になっているのだ。そして、そのヒト本人がいなくなっても、その毒は直ぐには消えず、社内に残る。
無邪気と邪気
レオス・キャピタルワークス社長の藤野英人さんがそのような事象で興味深い発言をしている。今回はそれをテーマとして書いてみようと思う。
(藤野氏)「成功するプロジェクトとか会社って、神がかったようなイベントやヒトの出会いがあり、あれよあれよという間に大きくなっていく。本当にそういう勢いってある。しかし、逆のケースもあり、やることなすことドツボにはまり、悪循環の渦が巻く時もある。これは、なかなか修正できない」
「その分かれ目は邪気なんです。無邪気なものは奇跡が起きやすく、邪気があるものは大概うまくいかない。無邪気はバカでもあるけど、そういうのはたとえ失敗したってたいした害はない。邪気のある利口ほど手がつけられないものはない。成功しても失敗しても関わった人は不幸になる」
藤野氏のこの話にこそ、小さな組織やベンチャー企業を自負する組織の採用において、最も注視しなければならない気づきがある。つまり、採用者における人選の重要性である。
頭の良いヒトの落とし穴
図説してみよう。このような4象限がある。
頭の良い・悪いというのは、学歴やキャリア、様々な要素から一般的には見られていると思うが、ここではいわゆるシンプルに“頭の回転が早い”と捉えてもらいたい。頭の優劣だけで考えて採用する場合ならば、スキルがある頭の良いヒトの方が良いに決まっている。圧倒的に優のヒトが採用されるはずだ。
ここで、もう一つの軸として、対象事項に対して楽観的に捉えるヒトと、悲観的に捉えるヒトの2つに分ける。よく慎重派や橋を叩いて渡るタイプなどと言われるが、慎重というよりも、「悲観的に捉える」という表現の方がこの場合はより適切だろう。
4つのマスができて、改めてこの表を眺めた時に、最初の話題を思い出し、「邪気がある」・「無邪気である」という2つの比喩表現を「楽観的」・「悲観的」という言葉に対応させると採用すべき順位が見えてくる。
採用すべき順位は以下である。
1―頭が良く、楽観的なヒト
2―頭が悪く、楽観的なヒト
3―頭が悪く、悲観的なヒト
4―頭が良く、悲観的なヒト
頭が良く、楽観的なヒトはもちろん最高だ。そういう方は、逃さず即採用しよう。次に採用したいのは頭が悪くても楽観的なヒトだ。そう。仲間にすると最も危険なのが、[頭が良くて][悲観的な]ヒトなのだ。
[頭が良く、悲観的なヒト](Aさん)を採用する一番の怖さは、周囲への波及効果だ。Aさんのまわりにいる多くのメンバーが、大きな影響を受ける。Aさんの発した何気ない悲観的な憶測を直に受け取るため、そのメンバーは、成功するかしないかギリギリのラインにあるサービスや新機能などを、悲観的に捉えてしまう。Aさんの悲観的な見方や意見が社内に蔓延してしまうのだ。
[頭が悪く、楽観的なヒト]の場合は、ほぼ誰も耳を貸さず、ないしは、耳を貸したとしても、「まあそういう視点もあるかもね」と軽く受け流され、メンバーやスタッフへの影響も非常に軽微で済む。また、仮に失敗しても、ネガティブな感情を引きずらなくて済む。
本質を見極める期間を設ける
恐ろしいのは、[頭が良く、悲観的なヒト]はほぼ無自覚であり、悪気は一切ないことである。そのため、ある程度後になってみないと、誰が悪かったのか、その時にどう対処すべきだったのかが分からない。そこで、じっくりとそのヒトの本質を見極めなければならない。いくつかのポイントを紹介しよう。
・社内の主要ポストに転職して直ぐのヒトを当てはめてはいけない
ある程度の期間をともに過ごすことでそのヒト自体の本質が見えてくる。本質が分からないまま、影響力の強い主要ポストに当てはめてしまうと、取り返しのつかないことになる。
また、いきなり部下のような人員を下に付けてはいけない。社内で情報が分断されることとなる。そのため、まずは3~6ヶ月程度、試用期間のようなものを設けて状況を見るのがよいだろう。
・会社の役員だけでなく、複数のメンバーからも、人となりを確認する
立場の違うヒトに対して、発言や姿勢が異なるというのは注意が必要だ。そのため、社内で接点のある複数の立場の方から、そのヒトの情報を集めて、本当に一緒に働ける人かどうかを見極めよう。
SNS内に不平不満や社内の問題をシェアするルームを作り、経営陣の役員に対しての不満や文句の声を上げる環境を生み出す予兆があれば、見逃してはならない。このような予兆や行動は、見つけ次第すぐに対処する必要がある。
たった一人、[頭がよく悲観的なヒト]が加わるだけで、どれほど事業が、そして、ベンチャー企業としての勢いが削がれてしまうか・・・考えただけでも非常に怖い話である。業務への直接的な人員補強という点だけではなく、影響の波及効果まで考えて採用を検討しよう。
(文=山口豪志)
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