「人間の視細胞と同様の機能が得られた」…3DIC技術で人工網膜チップ
東北大が開発
東北大学の田中徹教授は富士通でスーパーコンピューター「京」向けの微細トランジスタなどを開発。2005年に同大へ移り、シリコン貫通ビア(TSV)を使った3次元(3D)集積回路(IC)の研究に携わる。
複数のウエハーやチップを薄化・積層し、TSVで電気的につないで1チップ化する3DIC技術は、同大の小柳光正名誉教授が1989年に発表した。田中教授はこの技術を基盤とし、新型の人工知能(AI)チップや失明患者の視力を再生する人工網膜チップなどを開発中だ。
現在の半導体システムはインターコネクション(相互接続)がカギであり、微細部品や機能モジュールをいかに接続するかが重要。その際、配線を短く、大量に配置することで消費電力が減り、大容量高速通信が可能になるため「2Dから3D化は必然だ」と語る。
10年以上前に開発した相補型金属酸化膜半導体(CMOS)製の3Dイメージセンサーは、180ナノメートル(ナノは10億分の1)世代、90ナノ世代と、それぞれ最適な製造技術で作った複数のチップを組み合わせて積層した。
最近は、積和演算を行うニューロプロセッサーとメモリーチップを積んだ超低電力3D―AIチップを開発。イメージセンサーを応用した、光を電気に変換する3D人工網膜チップは「3000本のTSVにより1369画素を実現し、人間の視細胞と同様の機能が得られた」という。
さらに、リクルートと共同で開発した爪に装着する「ネイルコンダクター」は、省電力で高速学習・高速実行を実現する「リザバーコンピューティングAI」を使って指先の血流の情報を学習し、指の動作を検知することで、新たな入力インターフェースになると期待する。「3DICで生体の可能性を広げたい」と医工学への応用を模索している。
日刊工業新聞 2024年7月11日