化合物半導体を縦型集積、3次元コンピューター目指す
半導体再興へー大学の最先端研究 #14
北海道大学は2023年、半導体拠点形成推進本部を新設し、半導体の教育や研究により力を入れ始めた。北大はもともと化合物半導体の研究などが盛んで、量子集積エレクトロニクス研究センターでは、量子力学的な効果を用いた半導体ナノ構造体や新材料の創出などの研究が進む。
同センターの冨岡克広准教授は、シリコン基板上にインジウムガリウムヒ素などの化合物半導体のナノワイヤを積んだ「縦型トランジスタ」を世界に先駆けて開発した。有機金属気相エピタキシャル成長(MOVPE)法などでナノワイヤを結晶成長させ、異種材料を均一に並べる集積技術に強みを持つ。
現在のシリコントランジスタは平面に敷き詰めるが、ナノワイヤは垂直方向に立てることで1本1本が柱状のトランジスタとして働く。「シリコントランジスタが直面する微細化による性能向上の限界などがなく、集積度をどこまでも高められる」のが特徴だ。
さらに、シリコン基板とナノワイヤが接する界面の「量子トンネル効果」により、スイッチングの物理限界を超え、駆動電圧を下げられることで「トランジスタの消費電力を現在比9割以上減らせる」という。データセンターの電力消費量や集積回路の発熱量の増大といった社会課題を縦型トランジスタで解決できると見込む。
冨岡准教授は研究成果の事業化も視野に、いずれ「スーパーコンピューター並みの性能を持つ、米粒大の化合物半導体の3次元コンピューターを作りたい」と構想を練る。ラピダス(東京都千代田区)が進出し、半導体の関連産業が勢いづく北海道。「シリコン集積回路の先の技術である化合物半導体の集積技術を武器に、よい形でアシストしていきたい」と考えている。
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日刊工業新聞 2024年5月1日
特集・連載情報
日本の半導体が再興の波に乗り、大学への期待感が強まっている。先端デバイスの研究開発は一時期、大学でも下火となった。だが、半導体分野の教育・研究を通じた人材育成や、最先端技術の開発はこれから大学の大きな使命となる。専門家はどのような未来図を描くのか。注目研究者のテクノロジー展望に迫る。