【ノーベル賞候補】「SiCパワー半導体」日本の強みに…高品質結晶の製造方法確立した松波氏が語る国の政策への評価
人の生活には欠かせない製品に数多く使われている半導体。その中でも電力の制御や変換を担い高効率な「炭化ケイ素(SiC)パワー半導体」は、京都先端科学大学の松波弘之特任教授(京都大学名誉教授)によって生み出された。経済産業省などがパワー半導体産業に補助金を出す動きも見られ、日本の強みとして技術を確立するチャンスが舞い込んでいる。(飯田真美子)
SiCパワー半導体は一般的なシリコンパワー半導体よりも電力損失を10分の1以下に抑えられ、高い電圧への耐圧・耐熱性に優れている。熱に強く大きな冷却装置が不要なため、小型化や薄型化できる。この基盤となるSiCの高品質な結晶の製造方法を確立したのが松波特任教授だ。SiCは隕石(いんせき)に含まれており、古くから研磨剤として使われていた固い物質だ。特性の高さは知られていたが製造が困難で、研究対象にする人は少なかった。
松波特任教授は「良い特性を産業界で生かしたいという気持ちが強かった」と振り返る。シリコンの上にSiCを作る方法、SiCがパワー半導体と結びつく技術を約20年かけて構築し、日本の半導体企業も注目した。「工学は産業界に貢献する学問だと考えている」と強調する。その後政府の支援もあり、日本企業でSiCパワー半導体の開発・製造が一気に進んだ。今では世界中で製造・使用されるまでになっている。
「今後は低消費電力のSiCパワー半導体の開発に期待している」と笑顔を見せる。開発への貢献が認められ、松波特任教授は米電気電子学会から最高位メダルの一つであるエジソンメダルを受賞した。
一丸で技術力強化、世界の先頭に/京都先端科学大学特任教授・松波弘之氏
―世界的な半導体サプライチェーンの中での日本の強みは。
「それこそパワー半導体だ。経産省の政策によってパワー半導体関連業界を再編し、連合を図ろうとする動きが見られる。今まで各社ごとに半導体を開発していた。だが技術力を強化するには一丸となって同じ方向に進んでいくことが重要だ。この成果が出れば世界の先頭に立てるように思う」
―2007―08年のリーマンショック後に研究が加速しました。
経産省などが研究に5年間で100億円を支援してくれた。そのおかげで産業界がSiCの半導体ダイオード(SBD)や金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を大量に製造できた。この成果によって世界の先頭を走ることができ、各分野の社会実装に役立った」
―台湾積体電路製造(TSMC)を誘致した経産省などの国の政策への評価は。
「政策の狙いは遅れているシリコン微細化技術を国内で進め、海外に頼っている部分を取り戻すことだろう。日本は1980年代半ばから90年ごろまでは半導体の世界シェアを50%以上持っており、その企業力を取り戻してほしい。現状は輸入しているため製品入手までに時間がかかり、必要とする業界が嘆いている」
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