ホンダは10月投入、白熱する軽商用車「EV化競争」の行方
軽商用車市場で電気自動車(EV)化の競争が白熱している。ホンダは軽商用EV「N―VAN e:(エヌバン イー)」を10月に投入する。同カテゴリーでは三菱自動車の「ミニキャブEV」などが販売済み。小回りの良さやランニングコストの低減に加え、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への貢献などを訴求したい考えだ。(編集委員・村上毅)
軽商用車は商品の配送や人員・用具の運搬などが主な用途で、航続距離へのニーズが高い。N―VAN e:の最大の特徴は1充電航続距離(WLTCモード)が245キロメートルという点だ。ミニキャブEVの同180キロメートルと比べても航続距離の長さが目立つ。
その理由は大容量バッテリーだ。総電力量29・6キロワット時と軽自動車で最大級の容量を持つ最新世代バッテリーを採用。夜間に充電すれば都市部・郊外とも最小限の充電回数で移動できる。
加えて助手席側がピラーレスの大開口で荷物の積み下ろしがしやすい作業性の高さも特徴で、先進の予防安全性能や衝突安全性能も装備した。
一方、ミニキャブEVの強みは最大積載量だ。軽商用車上限の350キログラムと大容量だ。2011年に業界でいち早く投入した軽商用EV「ミニキャブ・ミーブ」をベースにモーターや駆動用バッテリーなどを刷新。航続距離を延伸して23年12月に投入しており、日本郵便などの配送用途などに採用されている。
「ミニキャブ・ミーブ トラック」を含む24年3月時点の累計販売台数は1万6041台と業界での認知度も高い。消費税抜きの価格がN―VAN e:と比べて20万円ほど安価で、補助金を活用すれば130万円程度とガソリン車と比べても遜色ない価格帯も魅力だ。
軽商用EVでは日産自動車が三菱自からOEM(相手先ブランド)供給を受け、24年2月に「日産クリッパーEV」を発売したほか、ベンチャーのASF(東京都千代田区)は佐川急便との共同開発で「ASF2・0」を販売している。
また、ダイハツ工業とスズキ、トヨタ自動車の3社はダイハツの認証不正が影響して販売が延期され、販売計画は現時点で明らかになっていないものの、軽商用EVを共同開発中だ。業界では「車種が増えることで市場が活性化する。価格や荷室の広さ、安全性、航続距離などユーザーの利用実態でニーズも分かれるのではないか」との声が聞かれる。
日本自動車工業会(自工会)の「軽自動車の使用実態調査」でも軽キャブバンの購入時に重視する点として「荷室・荷台の長さ」や「荷物がたくさん積める」「狭い道が通りやすい」などが3割以上を占めた。軽自動車を選択する理由でも「荷物の積み下ろしのしやすさ」「税金が安い」「価格が安い」「燃費が良い」などが上位だ。
一方で、EVの購入意向は2割強にとどまる。電動車への懸念点として「車両価格が高い(導入コストが高い)」が3割以上と最も多く、「充電するにあたり時間がかかる」「1回の充電での走行可能な距離が短い」も2割弱を占める。また、「電動車に追加費用を支払いできない」とする意見が3割以上とコスト意識も厳しい。
また、EVは温度が低下する冬場では電池性能が下がり航続距離が短くなる傾向にある。N―VAN e:は発売が10月で納車が本格化するのは冬場だ。販売後の評価が今後の軽商用EVの市場動向も左右しそうだ。
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