自動車サプライチェーンで脱炭素…愛知・三河の中小、SBT取得進む
愛知県三河地方の中小自動車関連メーカーが二酸化炭素(CO2)排出削減に合わせ、サイエンス・ベースド・ターゲッツ(SBT)イニシアチブによる認定の取得に乗り出している。国際的な評価が高まっているSBT認証を得ることで、環境対策に取り組む姿勢を社内外に打ち出す。エネルギーコスト削減を図るとともに、サプライチェーン(供給網)でCO2削減を進める取引先の要望に応える構えだ。(名古屋・星川博樹)
石亀工業(愛知県安城市、神谷英之社長)は2月にSBTを取得した。細川健一総務部長は「環境対策は国際的な流れ。中小企業にとっては優先順位が低くなりがちだが、取り組むことが重要」と狙いを説く。
同社は従業員50人の生産設備メーカー。取引先の要望はないものの、コンサルティング会社などからの助言もあって取得を決断。2030年度にはCO2排出量を20年度比42%減を目指す。業務車両を電動化するほか、省エネ設備を導入して実現する計画だ。
従業員20人の生産設備メンテナンス会社の鈴木保全(同岡崎市、鈴木浩社長)は、取引先の三菱自動車のアドバイスもあって23年12月に取得した。作成した工程表を基に「34年にはカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を達成する」と鈴木社長は意気込む。
1月にはグリーン電力を導入した。今後太陽光発電システムなどの設備投資も必要になるが「エビデンスとともに納入価格に反映し、取引先には理解していただく」(鈴木社長)という。
1月にSBTを取得した長坂樹脂工業(同市)の長坂徹也社長は「中小企業にとって数値目標を設定するSBTは取り組みやすい認証」と話す。同社は自動車用小型モーターケースなどを生産する従業員14人の樹脂部品メーカー。地元自治体の勧めもあってSBTを取得したところ、社員の省エネへの意識が高まった。
30年度にはCO2排出量を22年度比42%削減することになるが、23年度までにサーボモーター仕様の射出成形機を導入するなどして10%の削減に成功した。今後は生産計画も見直しつつ稼働率を向上し、電力消費量を低減する。
SBTは中小企業向けが策定され、従業員500人以下などの条件をクリアした企業が自社の活動を通じた排出(スコープ1、スコープ2)に限って目標設定が可能となった。このため、中小企業でも取り組みやすい国際規格として関心が高まっている。
23年12月にSBTを取得した鋳物の中子メーカー、クロタ精工(同碧南市)の鈴木泰博社長は「取引先や同業の会合でもSBTが話題になることが増えた。今後、取得する企業は増える」と見通す。環境対策への取り組みが資金調達や補助金獲得の条件になる可能性も高まり、今後もSBT取得の動きは広がりそうだ。
長坂樹脂工業の長坂社長は「ティア3以下の小規模企業でも環境対策は欠かせなくなる」と指摘。大手との継続的な取引には「SBTなどで具体的取り組み姿勢をアピールすることが大事」とし、中小企業の生き残りの条件になりつつあるとの見方を示す。