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前衆議院議長・大島理森氏が力説、脱炭素がもたらす利益

前衆議院議長の大島理森氏は、脱炭素を目指す企業の支援活動に身を置く。2021年に政界を引退し、温暖化対策の強化を訴える企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP、217社)の特別顧問となった。半世紀近い政治活動で環境問題に接し、「気候変動問題が重要であると多くの人に伝え、ともに考えることがこれまでの恩返しだ」と決意した大島氏に気候変動に立ち向かう思いを聞いた。

―環境問題に関心を持ったきっかけは。

「環境庁長官(1995年就任)として水俣病問題の解決に取り組んだ。その時、自然の破壊は現地で暮らす人の生命はもちろん、尊厳を傷つけ、そして地域コミュニティーも壊すと実感した。ある意味、人間の欲望が引き起こしたことだ。環境問題への取り組みは次の世代に対する我々の責務であり、政治の責任だと痛切に感じた」

―海外の議長とも気候変動について議論したと聞きました。

「先進7カ国(G7)下院議長会議で、地球環境問題を議題にしたことが数回あった。海外の方は『環境正義』という言葉を使う。地球環境の危機に立ち向かうことが正義という。また気候変動は食料不足や健康被害、経済発展の遅れを招いて地球規模で格差を生むため、全世界が対応する必要があるという認識や危機意識が強い。私にとって刺激となった」

―衆議院議長だった20年11月、衆参両院が「気候非常事態宣言」を決議した意義は。

「議員の認識が高く、超党派でまとまった。非常に大きなことであり、ここまで来たという感じを持った。菅(義偉)、岸田(文雄)の両首相にも敬意を表するが、議員の意識も大事にしないといけない。国民、経済界の方々と気候変動問題の重要性と将来への責任を共有することが私の人生の仕事と思っている」

―JCLP特別顧問となった理由は。

「JCLPから要請され、活動の説明を受けると、私の思いと共通するものだった。政治や政府に政策を提言する橋渡しの役割を期待されたのだろう。私も企業の現場を知りたいと思って引き受けた。実際に企業を訪問し、会長や社長と対話をすると初めて知ることが多い。就任後、半年で5社を訪問した」

―特に関心を持った点は。

「グローバル企業はビジネスにおいて環境配慮の基準を設け、その基準に沿わないと取引を見直すことまでを考えている。ここまで来ているのかという思いを持った。世界が環境配慮をスタンダード(標準)にして仕事を進めようとする潮流や変化を肌で感じた」

―その潮流に中小企業が乗り遅れるのでは。

「どう対応して良いのか、手探りの中小企業も少なくない。政治、政策として手引きを示し、後押しすることが非常に大きな課題だと思う。中小企業が1社で挑戦しようとしても難しいが、地域で協力体制を作るという方向性がある。地域を巻き込むために地方自治体の首長のリーダーシップも必要だろう。日本経済の大きな位置づけである中小企業の活動が大事だ」

―脱炭素への取り組みは地域や国にどのような利益をもたらしますか。

「地域再生のカギにもなると思う。自分たちで作ったモノを自分たちで消費すると、資金が地域で循環して経済効果や雇用を生む。そして地域の環境を守ることは、自分たちの手で故郷を守ることにもなり、生きがいや誇りを感じる。それがコミュニティーの再生や心の豊かさとなる。足元からの活動は地域、そして日本、さらに地球の問題解決につながるだろう。故郷の環境を守ることが『豊かさ』だという意識を日本全体で持ち、世界に誇れる国にしたい」

【略歴】おおしま・ただもり 1983年の衆議院選挙で初当選。文部相や農林水産相、自民党の幹事長や副総裁などを歴任。15年4―21年10月の衆議院議長の在任日数は憲政史上最長。22年2月からJCLP特別顧問。76歳。

企業の脱炭素、政治が後押し 高まる日本の存在感

大島氏が衆議院議長だった2015―21年は、国内外で気候変動対策への機運が高まった時期と重なる。15年末、国連の気候変動枠組み条約第21回締約会議(COP21)で「パリ協定」が採択され、産業革命前からの地球の気温上昇を2度C未満に抑え、1・5度Cを追求する世界目標が掲げられた。

仏パリのCOP会場には欧米企業トップが駆けつけ、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする脱炭素を各国の首脳に訴えた。企業は厳しい目標に消極的と思われていたが、ハリケーンや豪雨が経営に打撃を与えており、異常気象を放置できなくなっていた。17年、米政権はパリ協定からの脱退を表明したが、アマゾンやアップルなど米国を代表する企業は「我々はパリ協定に留まる」と声明を出して団結した。気候変動への危機感の表れだ。

「気候危機」を口にする海外議長と対話した大島氏は、「日本が立ち遅れているという危機感すら覚えた」と振り返る。その日本にも転換点が訪れる。18年の西日本豪雨は1兆円を超える被害額が出た。同年に関西を直撃した台風21号は保険金の支払額が1兆円を突破した。

気候災害の脅威を目の当たりにした長崎県壱岐市は19年、「気候非常事態宣言」を発出。その後、100を超える自治体や国会も宣言を出した。日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の会員も19年4月に100社を突破し、21年10月に200社を超えた。09年にリコーや富士通など5社で発足し、政府に気候変動対策の強化を訴えてきたJCLPの活動が大きなうねりとなった。

現在、再生可能エネルギー100%での事業運営を目指す国際組織「RE100」には日本から72社が参画し、国別で米国に続く世界2位となった。また日本247社の排出削減目標が、パリ協定達成に貢献する水準として国際団体「SBTi」から認定を受けているなど、日本勢も存在感を高めている。

気候変動対策は目標を掲げるだけでなく、行動が問われている。大島氏がJCLP特別顧問に就任したように、政治からの後押しもあると日本企業は脱炭素への移行で世界を主導できる。(編集委員・松木喬)

日刊工業新聞2022年9月23日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
インタビュー、緊張しました。ひと言、ひと言に重みを感じました。政治家としての責任の話をされていましたが、問題を多くの人と共有したいという言葉が印象的でした。記事では書けなかったのですが、フリーアドレスや子供がいるオフィスに驚かれたそうです。いろいろなご縁で今回のインタビューが実現しました。調整していただいたJCLP事務局の皆さまに感謝します。

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