“特別な資産”議論本格化…「NTTが維持継続」の声も
別会社に切り出し、インフラ脆弱化など懸念
NTT法見直しの主要項目であるNTTの“特別な資産”に関する議論が本格化してきた。情報通信審議会(総務相の諮問機関)の作業部会の構成員を務める名古屋大学大学院の林秀弥教授は、電柱など日本電信電話公社から継承した資産をNTTが維持し、そこに設置される電気通信設備の発展責務を課すべきだとする私論を示した。NTTからこうした資産を切り出した際の通信インフラの脆弱(ぜいじゃく)化を懸念する声もあり、国民に不利益とならない結論が望まれる。(編集委員・水嶋真人)
「NTTを特殊会社として位置付け、保有する線路敷設基盤を有効活用して設備を高度化し、その上で高度で多様なサービスの提供を図る役割を担ってもらうことが必要だ」―。林教授は14日の作業部会で、NTTに期待される役割と公正競争の確保に関する考え方を示した。
NTT東日本とNTT西日本は、日本電信電話公社時代の独占体制で全国に整備された電柱約1186万本、通信ケーブルを通す地下パイプ(管路)約62万キロメートルなどの線路敷設基盤を引き継ぎ、その上で設備や サービスを提供している。2023年3月時点でも2社で国内の電柱の約35%を保有し、光回線シェアは約74%ある。
このため、NTT法ではNTT東西の業務範囲を地域電気通信事業に限定し、県内通話を自己設置設備で行うことを規定している。電気通信事業法ではNTT東西に電話設備や光ファイバー設備の提供義務を課し、公正な競争環境を担保した。
こうした背景からKDDIやソフトバンクなどNTTと競合する通信事業者は、NTT東西とNTTドコモの統合などで特別な資産の利用の公平性が保てなくなるとしてNTT法の維持を強く要請。NTT法を廃止するなら、特別な資産をNTTから切り出すといった対策を求めていた。
林教授はNTTに対して特別な資産を維持し、そこに設置する電気通信設備の発展責務を課すことは「電気通信役務の円滑な提供などを目的とするNTT法や電気通信事業法の法目的からも導かれる」とする。NTT東西に対して「固定通信の県間業務も本来業務化するべきだ」(同)とした上で、移動通信やインターネット接続サービス(ISP)事業への参入は公正競争の観点からNTT法で引き続き禁止した方が良いとの私論を展開した。
大手通信事業者以外からも懸念の声が上がっている。関西電力傘下のオプテージ(大阪市中央区)は、特別な資産をNTTから別会社に切り出した場合、「中長期的には料金の高止まりやインフラの脆弱化など国民へ不利益を及ぼす恐れがある」(篠原伸生取締役執行役員)と主張。NTT東西とNTTドコモの統合への懸念は法規制による措置で解消可能とし、「多大な移行コストなどが生じるアクセス網の資本分離は実施するべきではない」(同)とした。
また、日本ケーブルテレビ連盟はケーブルテレビがNTTの電柱の利用を求めた際に強度不足などを理由に拒否されることが多いとして、特別な資産の貸し出しに関する審査基準の開示を求めた。現状通りにNTTが特別な資産を維持することになった場合でも、公正競争環境を維持するための適正な規制が求められる。