「不安があると言わざるを得ない」…楽天モバイル副社長が語ったNTT法廃止への疑問
楽天モバイルの前田敦史副社長は、2025年をめどにNTT法を廃止するという“手段”を優先した議論ではなく、NTT法を見直す目的や阻害要因の解決策、その実装方法を明確化してから手段を決めるべきだとの見解を示した。「手段をいつまでにやると決めようとするから、何のために、なぜ必要なのかと議論がまとまらなくなる」と指摘。こうした通信事業者の疑問を解消する丁寧な議論を要望した。(編集委員・水嶋真人)
「NTT法を見直すことで何が起きるのかよく分からないまま議論が進むと、我々としては不安があると言わざるを得ない」―。前田副社長は、自社を含むNTTの競合各社がNTT法廃止に反対する要因の一つをこう説明する。
前田副社長は2018年に楽天モバイルネットワーク(現楽天モバイル)を設立して自前の携帯通信網の構築を始めた際、「(光ファイバーなどの通信設備を)公正・公平に貸し出してくれたNTT東日本、NTT西日本の対応に非常に感謝している」とする。だからこそ「NTT東西の存在感や影響力の大きさをあらためて実感した」(前田副社長)。
NTT東西は全国の局舎約7000ビル、電柱約1186万本など日本電信電話公社(現NTT)が約25兆円を投じて建設した“特別な資産”を承継している。この承継による独占の弊害をなくし、新規参入や公正競争を促進するため、移動体通信業務を手がけるNTTドコモが92年にNTTから分離。99年には地域通信を担うNTT東西と、長距離通信を担当するNTTコミュニケーションズ(NTTコム)が発足した。
こうした経緯もあり、NTT法にはNTT東西の業務範囲について「地域電気通信事業を経営する株式会社」と明記されている。自民党の提言では、NTT法を廃止してもNTT東西とドコモなどの合併・統合禁止を電気通信事業法に記載するべきだとした。だが楽天モバイルの前田副社長は「NTT東西が移動通信事業をやらないこと、移動体通信業務を手がけるドコモ以外のNTTグループ会社がNTT東西と合併しないことについて、細かな議論はまだ行われていない」と指摘する。
仮にNTT東西が地域通信事業以外の事業も自由に手がけられるようになった場合、新事業で発生した損失の回収費用を光ファイバーなどの通信設備貸出料金に加える可能性も考えられる。前田副社長は「こういう仕組みであれば担保できるという中間の議論がなく、表面的に電気通信事業法に書き込むだけ、との議論は非常に良くない」とする。
情報通信審議会(総務相の諮問機関)の通信政策特別委員会は1月、NTT東西の業務や通信インフラのあり方を議論する「公正競争ワーキンググループ(WG)」など三つのWGを新設し、NTT法見直しの個別の議題に関する協議を始めた。前田副社長は「法律は、その裏にある精神を把握して初めて機能する」と述べ、手段に至るまでの目的や解決策を明確化する深みのある議論を求めた。