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脱炭素建築で注目の国産材、利用促進の壁となる「川上・川下」の事情

脱炭素建築で注目の国産材、利用促進の壁となる「川上・川下」の事情

住友林業が開発した木質耐火部材「木ぐるみFR」

国産木材の利用を増やし持続可能な社会への変革を目指す運動「ウッド・チェンジ」への関心が高まってきた。2050年のカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)を目指すに当たり、木の二酸化炭素(CO2)吸収・貯蔵効果が注目される。中でも木材使用量が多い建築分野では木材の積極的な利用が推進されている。しかし国産材の使用量を増やすには、苗木を植え、使うまでの過程にいくつもの課題が存在する。(田中薫)

林野庁が旗を振る運動「ウッド・チェンジ」のロゴマーク

安定的供給網構築へ官民で協議会

木はCO2を吸収して成長する。その木を家具や建築物などに使うことで、吸収したCO2を長期間放出せず貯蔵できるとみなされている。CO2の吸収量は木の成長に伴い低下する。日本では戦後植林された人工林が伐採に適した時期「伐期」を迎えており、その面積は人工林全体の約半分。山で出番を待つ樹木の積極的な活用が求められている。

単に伐採するだけでなく、再び植林し育てる「再造林」も必要だ。伐採後の山をそのまま放置することは生態系の破壊につながり、山崩れなどの災害を引き起こす危険性もある。しかし、林業従事者のなり手の不足やコストの高さ、将来の安定的な需要が見込めないことから再造林は進んでいない。

需要側では、木材は注目されているものの、国産材は外国産の木材に比べ高額で安定的な調達が難しい。21年頃の米国の住宅需要の高まりによって世界的に木材が不足・高騰した「ウッドショック」を機に、国産材の需要が高まり、その重要性も周知された。しかし供給体制は万全ではなく、「一度に何万立方メートルも木材が必要となると、国産材では破綻する」(住友林業建築企画部技術開発グループの熊川佳伸グループマネージャー)状況だ。

現在、国産材の需要・供給は健全に循環していない。林業従事者の確保、調達・搬送の合理化、安定的な需要創出と、川上から川下までの課題を同時にまんべんなく解決していくことが求められる。

林野庁はさらなる需要創出のため、21年に木材利用促進に関する法改正を実施。対象を公共建築物から民間建築物まで拡大し、中でも住宅に比べて木造率の低い低中層の非住宅建築物での木材利用促進を図っている。また店舗の木造化に積極的な流通業や、作り手の住宅メーカー、ゼネコン、構造材メーカーなどが参画する官民協議会「民間建築物等における木材利用促進に向けた協議会(ウッド・チェンジ協議会)」を立ち上げた。

建築主や林業従事者、建築事業者、国・地方公共団体を結ぶ「建築物木材利用促進協定」も制定した。国から木材利用に関する助言や情報を提供し、民間からは木材利用に関する取り組み方針を提供する。これにより林業事業者は安定的なサプライチェーン(供給網)の構築と必要な木材量の予測ができる。建設事業者には安定的な木材調達、木造建築に関する技術力をアピールする機会にもなる。林野庁林政部木材利用課の山下孝課長補佐は「使う側と供給する側、どちらも改革を進めていく」と強調する。

中低層ビルの使用量拡大、耐火基準緩和が追い風

規制緩和も行われている。23年4月、国土交通省は建築基準法における、階数に応じて要求される耐火性能基準を改正。従来の60分単位から30分単位に変え、最上階から数えて5階以上9階以下を90分耐火(従来は120分耐火)に、柱・梁は15階以上19階以下を150分耐火(同180分耐火)とした。これにより中低層階のビルで使用できる木材量が増える。

これを受けて一部企業は基準に適合する耐火部材の開発・検証に取り組んでいる。熊谷組は木質耐火部材「環境配慮型ラムダウッド・ツー」で梁(はり)の90分耐火大臣認定を取得した。

石膏ボード業界も建築物の木造化に期待する。木造建築物で耐火性能を上げる場合、通常1枚の石膏ボードを2枚・3枚と重ねて使う。耐火性能の高いボードの引き合いが増えるほか、部材メーカーが新たに開発する製品で石膏ボードが使われるケースがある。須藤永作石膏ボード工業会会長は「住宅着工戸数が減る中で、新たな用途が出てくることはありがたい」と話す。

三井ホームの木造マンション「モクシオン」

ウッド・チェンジ協議会では、企業間で実績の共有や意見交換、建築設計の企画などを行っている。同協議会メンバーの三井ホームはツーバイフォー工法の中層木造マンション「モクシオン」を展開。中層ビルの場合、2―3階建ての住宅に比べ地震発生時壁にかかる負荷が大きくなる。同社は自社開発した耐力壁「モクスウォール」と壁のねじれ・回転を抑える鉄製金具「ロッドマン」により、壁の厚みを抑えながら強度を維持した。また、ゴムやスプリングを付けたパッドを使用し、振動が直接伝わらない構造の遮音床「ミュート」によって、鉄筋コンクリート(RC)造のマンションと同レベルの遮音性も確保した。三井ホーム施設事業本部の高山康史設計部長はモクシオンについて「脱炭素に興味があるオーナーに対して有効なアイテム」とアピールする。

ハイブリッド化が利用促進のカギ

高山部長は木材利用を促進するには「ハイブリッド化することが大切」と話す。モクシオンは全階の構造部材に木を使ったものもあるが、一部分がRC造の物件もある。またRC造でも室内に木材を多く使用するなど、「適材適所、コストを考えて木を使う」(高山部長)ことが木材利用促進には効果的だ。

同じく協議会メンバーの住友林業は、主に商業・事務所向けに中層木造ビルを展開。それを支えるのが、同社筑波研究所(茨城県つくば市)などで開発した「木ぐるみCT」「木ぐるみFR」などの耐火部材だ。

木ぐるみCTは60分、120分、180分耐火構造の大臣認定を取得。石膏ボードの周りに通気層を作りながら合板で覆うことで、コストを抑えながら壁紙なしでそのまま使用できる高い意匠性を持つ。木ぐるみFRは純木質でありながら、60分耐火の認定を取得。難燃処理を施した複数種類の木材を組み合わせることで、純木造建築を可能にした。

木造建築物の耐震性能強化にも取り組む。23年11月には米で木造ビルの振動実験を行った。阪神・淡路大震災級の揺れを含む実証に耐え、安定性を保った。今後、実証の結果を国内での技術開発にも役立てていく。

住友林業建築企画部設計グループの丸谷周平グループマネージャーは、協議会で中規模物件の木造化に関する試設計などを行う。その中で「業界を飛び越えてこれらを広めていくべきなのでは」と考える。実現には法改正や技術進化により、木造ビル建築が広く実現可能になったことを周知していく必要がある。

日刊工業新聞 2024年03月13日

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