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“植物の音”から自然学ぶ…科学とアートで環境問題への理解深める新たなカタチ

“植物の音”から自然学ぶ…科学とアートで環境問題への理解深める新たなカタチ

トネリコで作ったチューブ状の作品

地球温暖化などの環境問題は解決すべき身近な課題だが、難しい科学の用語が飛び交うことが多いなどの理由で一般からはないがしろにされがちだ。こうした現状を少しでも変えようと、海外の研究者を中心に科学とアートを組み合わせて五感で科学や自然現象を体験できる取り組みを進めている。特に植物が発する音を使った研究や作品が注目されており、都内でイベントが行われた。新たな環境問題への理解を深めるカタチ作りが始まっている。(飯田真美子)

植物は環境の変化で色や匂い、形状がすぐに変わってしまうことが知られている。だが音の影響に関する研究はほぼ進んでいなかった。イスラエル・テルアビブ大学の研究チームは、ヒトが聞こえない周波数の音を植物が発することを発見した。一般的な騒音を検知して取り除き、植物の音だけを捉える人工知能(AI)を開発。これを使い、植物がストレスを受けると音を出すことを解明した。

植物の音に注目して研究や創作活動を進めている研究者は多い。スイス・チューリヒ芸術大学のマルクス・メーダー研究員もその1人で、樹木の成長や気候変動による音の違いを研究している。スイスの61カ所420本以上の樹木に特殊なセンサーを付け、リアルタイムに音を視聴できる仕組みを構築した。さまざまな製品に使われる木材のトネリコに注目。気候変動で乾燥・高温の期間が長期化し、他国から持ち込まれたカビの影響で枝枯れが発生することを音の変化で解明した。また、北東アジア原産のタマムシの脅威で数十年以内に欧州のトネリコが壊滅状態に陥る可能性を見いだした。

メーダー研究員は森林の音を多くの人に伝える手段として、芸術家と共同でトネリコで作ったチューブ状の作品を製作。中にスピーカーを埋め込み、人が触れると振動とともに音の変化が分かる仕組みになっている。メーダー研究員は「芸術と組み合わせることで、科学の知見や環境問題の脅威を一般に伝える活動を続けたい」と意気込む。最近では奈良県にも研究拠点を広げており、木の音の変化による気候変動を住民とともに考える取り組みを進める。

研究に関するトークイベント

日本でも植物の音を使った作品を生み出す芸術家がいる。慶応義塾大学の新美陸人氏は、植物の葉の表面に微量に流れている電気信号に着目。同信号を読み取る専用のパッドを開発し、音に変換する手法を作った。これを生け花とコラボレーションし、使用する植物の葉にパッドを装着して発される音を活用して音楽を即興で作り出す活動をしている。日本の文化である華道と科学、音楽を組み合わせた新たな芸術を構築した。新美氏は「植物からの音で音楽を作ることで、植物も生きているということを感じてほしい」と強調した。

地球環境をはじめとした科学は、専門用語が多く難しさから興味を持たれなくなりがちだ。教育現場では科学や技術、工学、芸術・教養、数学を統合的に学習する「STEAM教育」を推し進めている。その中で生活に親しみのある音や色、形などの変化を利用した科学と芸術が合わさることで、より深みのある学びにつながる可能性が高い。

日刊工業新聞 2023年10月23日
飯田真美子
飯田真美子 iidamamiko
科学技術の話は専門用語が多く、分かりやすく伝えることは難しいです。ただ身近な絵や音などを使って表現すれば、難しさへの壁は低くなるかもしれません。日本は産業への応用を見越した研究を重視して支援する傾向にあるためあまりアートと結びつけた研究はないかと思っていましたが、こうした研究が増えることで新たな研究者の人材獲得につながると思いました。

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