“水辺の街”復活…日本橋が変貌遂げる、三井不動産など再開発
広大な親水空間創出
東京都内各所での再開発ラッシュに沸いた2023年。大手不動産による街づくりは依然続いており、24年以降も大型プロジェクトがめじろ押しだ。三井不動産が他の事業者と共同で取り組んでいる日本橋川沿い再開発もその一つ。第1弾の「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」が着々と進行中だ。オフィス街のイメージが根強い日本橋が、再開発プロジェクトで変貌(へんぼう)を遂げようとしている。(編集委員・古谷一樹)
江戸時代に城下町として成長を遂げた日本橋。地域のシンボル「日本橋」が五街道の起点となり、全国各地から商人や職人が集まったほか、水運に恵まれたことで多種多様な物資が集結・流通し、産業や文化の創出につながった。現在も老舗企業などの商業施設と先端分野の企業の拠点が混在しており、伝統と革新を体現する街でもある。
こうした歴史や地域特性は、日本橋川沿いで進む5地区の開発のリーディングプロジェクト「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」のテーマにも反映されている。その一つが「豊かな水辺の再生」。日本橋川の上を走る首都高速道路を35年に地下化することと併せて、再開発により将来は広大な親水空間の創出を見込んでいる。
「川に顔向けした街づくり」。三井不動産ビルディング事業一部事業グループの木幡勝吾主事が、コンセプトの一つをこう説明する通り、日本橋川にほど近い立地を生かしてオフィスワーカーや地域の居住者が気分転換やリフレッシュできるように、さまざまな仕掛けを施している。
例えば超高層のメインタワー。高さ200メートル以上に位置する居住施設やホテルのロビーから、湾岸エリアや東京タワー方面の眺望が可能。また高層と低層の2カ所に設けるオフィスの屋外スカイガーデンからは、地域の象徴である日本橋や東京スカイツリーを一望できる。
親水性は中地区だけでなく、5地区の共通テーマでもある。これに各地区の特徴が加わることによって、「歩いて楽しくなる街、行きたくなる街になる」(木幡主事)と期待する。
プロジェクトと歩調をそろえるかのように、東京都が10月から東京湾や河川を通勤ルートに活用する「舟旅通勤」を豊洲―日本橋間でスタートさせており、水上交通の活性化が進めば、街のにぎわい創出への相乗効果が見込めそうだ。
日本橋川上空に青空が広がり、緑豊かな河川敷には多くの人が行き交う―。こうした風景を青写真に描くプロジェクトの竣工は26年3月の予定だ。
「ミクストユース」進化 MICE施設、都内最大級
もう一つのコンセプトに掲げたのが、「ミクストユースの街づくり」。ミクストユースとは土地や建物をオフィスや住宅、商業施設、ホテルなどの単一用途で開発するのではなく、複数の異なる用途を持たせる街づくりの手法で、三井不動産はこれまでの再開発でも取り入れてきた。今回のプロジェクトで目指すのは、こうした実績を基にしたミクストユースの進化形だ。
プロジェクトはA―Cまでの3街区で構成。A街区は中央区指定有形文化財に指定された「日本橋野村ビル旧館」を保存することで日本橋の伝統と文化を維持しつつ、地域全体のにぎわい創出を図る。またB街区はA街区と一体感のある景観を醸成しつつ、多様なライフスタイルに対応可能な約50戸の住戸を予定している。
3街区の中で、ミクストユースの象徴と言えるのが、高さ約284メートルの超高層メインタワーだ。世界中からのビジネス関係者の受け入れを想定。オフィスのほか、ラグジュアリーホテル、居住施設、商業施設、MICE(会合・報奨旅行・国際会議・イベント)・ビジネス支援施設を備えている。
特に「中地区ならではの強みになる」(木幡主事)と期待しているのが、都内最大規模となるMICE施設。国際会議などの大型イベントやアフターコンベンションに対応する1500平方メートル規模のホールを二つ用意しており、収容人数は最大で合計3000人に達する。
施設間の連携も意識。MICE施設に来場した人がイベントの終了後、ラグジュアリーホテルに宿泊するといった使い方を見込んでいる。
「この20年間で日本橋エリアは大きく変わってきた」(同)と話すように、かつてのビジネス街の印象は少しずつ弱まり、観光や買い物を楽しめる地域として注目度が高まってきた。再開発の進展を通じて街全体が一段と多くの人でにぎわい、「歩いて楽しくなる街・行きたくなる街」としてのイメージ確立が期待される。