森ビル・東急不・住友不…スタートアップ支援加速する不動産大手の目論見
資金・人材などの課題解決
不動産大手がスタートアップの支援に一段と力を注いでいる。都心の再開発事業で誕生した大型複合施設にはベンチャーキャピタル(VC)の集積拠点や交流スペースなどが相次ぎ整備され、入居しやすい環境づくりも着々と進む。ハードに加えて、ソフトの充実を図ることによって資金や人材といったスタートアップが抱える課題を解消し、持続的な成長を下支えするエコシステムの創出につなげようとしている。(編集委員・古谷一樹)
東京で進行する再開発ラッシュの中核となる大型複合施設。こうした施設を活用し、不動産大手がスタートアップ支援を強化している。資金調達や人材の確保といった課題解決を図るため、さまざまな支援策を打ち出している。
東京都港区に開業した麻布台ヒルズ。スタートアップの成長に欠かせないリスクマネーの供給拠点として、森ビルがこの一角に設立したのがVCの大規模集積拠点「Tokyo Venture Capital Hub」だ。同施設の開会を記念する式典で辻慎吾社長が「施設をつくるだけではなく、集積効果をさらに高める」と強調したように、スタートアップに対する協調融資の増加などさまざまな役割を担っている。
同施設では、独立系のVCや大企業を母体とするコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)など計70社の入居を見込んでいる。レイアウトの変更が可能なコワーキングスペースなど関係者が日常的に顔を合わせる機会を提供するほか、会員同士の連携を後押しするイベントの開催も予定する。
一方、30日に竣工する大型複合施設「渋谷サクラステージ」に起業支援施設「manoma(まのま)」を開設したのは東急不動産。クリエーティブ産業の企業関係者やスタートアップの交流促進の場に位置付ける。
渋谷の街並みを一望できる「SHIBUYAタワー」の高層階に設置。180インチのスクリーンや音響施設といったイベント開催機能を充実させた。さらにレストランやラウンジバーを併設しており、商品発表や展示会などさまざまな用途での利用を見込み、、2024年2月に開業する予定。
渋谷にはゲーム、音楽、ITなど多岐にわたる分野の企業が集積している。こうした特性を踏まえつつ、「ハードとソフト両輪の開発によって渋谷の魅力をさらに高め、日本経済の成長の一翼を担うことを目指したい」(星野浩明社長)。
資金力の乏しさに配慮し、コストを低減したオフィス環境を整備する動きもある。住友不動産は24年春までに、初期費用を低減できる家具付きオフィスを全国各地に増設。席単位から個室まで柔軟な賃貸契約が可能で、大企業や金融機関などを招いたイベントの定期開催を通じてマッチングを後押しする計画だ。
大企業とのマッチング機会の提供や、顧客・販路開拓を後押しする機会の増加を通じた新たなビジネス創出への期待は大きい。支援策の多様化を進める不動産会社の存在感も今後さらに高まりそうだ。