中小企業の価格転嫁推進、賃上げにつながるか
2023年は22年に続き、中小企業における価格転嫁の動きが広がった。政府は価格転嫁の状況や交渉の指針を公表するなど、価格転嫁の推進を側面支援してきた。一方で足元では物価高の影響が弱まりつつある。政府は原材料やエネルギー価格だけでなく、労務費の転嫁率を高めるため、矢継ぎ早に対策を講じた。この流れを中小企業の賃上げにつなげることが不可欠だ。
経済産業省・中小企業庁が11月に公表した中小30万社を対象にした価格転嫁の実施状況の調査結果によれば、直近6カ月の受注側のコスト上昇分に対し、発注側がどれだけ価格転嫁に応じたかの割合を算出した「価格転嫁率」は前年同月比1・2ポイント減の45・7%だった。転嫁率が下がった主な要因は物価高の影響の弱まりだ。「コストが上昇せず、価格転嫁は不要」と答えた企業は同1・3ポイント増の16・2%。コスト上昇の一服やすでに価格転嫁ができたため、転嫁が不要と答えた企業が増えた。
課題は各種コストの転嫁率を高め、賃上げにつなげられるかにある。公正取引委員会は11月に労務費転嫁に関する指針を公表。発注側と受注側それぞれに求められる行動を示した。受注側が多い中小企業の労務費の転嫁率を高め、中小が賃上げを行える環境を整える。
企業庁も価格転嫁対策をさらに強化する。24年度予算の概算要求には、取引実態を調査する「下請Gメン」の増員などで36億円を計上。下請け取引の監視機能を強化する。また、24年1月にも公表する中小を対象とした価格交渉・転嫁の実態調査に関して発注企業リストの社数を増やすことも検討する。従来の企業リストよりも中堅企業などの幅広い企業の取引状況を把握できるようにする。サプライチェーン(供給網)全体で価格転嫁を浸透させたい考えだ。
人手不足から収益が確保できない中でも賃上げせざるを得ない「防衛的賃上げ」も起きている。価格転嫁率の向上なくして、賃上げは持続しない。