ニュースイッチ

“現場”の景況は?中小経営者らの取材を基に探る【東日本編】

“現場”の景況は?中小経営者らの取材を基に探る【東日本編】

観光客が戻ってにぎわう札幌・中島公園

日本経済はコロナ禍からの回復が続いている。内閣府が15日発表した4―6月の国内総生産(GDP)は年率換算で前期比6・0%増と高いの伸びを示した。自動車などの輸出が押し上げた。一方、景気のけん引役である個人消費は勢いを欠き、世界経済の減速懸念もくすぶる。列島各地の“現場”の景況はどうなっているのか。中小企業経営者らへの取材を基に探った。初回は北海道、東北、関東甲信越。

【北海道】観光業、国内客戻る 全道でキャンセル待ち

「ホテルの予約が取れない」「宿泊料金がコロナ禍の3倍になった」―。北海道を訪れるビジネスマンが悲鳴を上げている。国内客を中心に復活し始めた北海道への旅行客増に加え、全国高校総体の約30競技が7月22日から1カ月にわたって全道で実施されている特需もあり、宿泊施設の予約はすでに飽和状態。「これまで宿泊予約が取れないのは、札幌でしか経験がなかった。今回は全道の都市でキャンセル待ちばかりだ」(大手メーカー幹部)という。

観光需要の復活は北海道経済にとって好材料ではある。しかし手放しで喜べる状況にはない。北海道経済部がまとめた5月の経済動向によると、個人消費や公共工事、観光などが持ち直しや改善したのに対し、鉱工業生産指数や住宅建設などといった生産活動は動きが弱く足踏みを余儀なくされている。

北海道では2月に次世代半導体会社のラピダス(東京都千代田区)が千歳市への進出を決めたほか、6月には札幌市をグリーン・トランスフォーメーション(GX)金融の世界的拠点にしようと産学官の共同事業体が立ち上がるなど、新しい動きが相次いでいる。だが、こうした流れが北海道経済を潤すのは、もう少し先の話になる。道内からは「話題ばかりが先行しても…」(中小建設企業)という声も聞こえてくる。

【東北】半導体、産業集積の動き

東北地域の生産活動は、電子部品・デバイスがパソコンやスマートフォン向けで弱含みの動きがある一方で、自動車向けは堅調であり「持ち直している」との認識が強い。設備投資も期待感が高い。目を引くのが電気機械。中長期で高い半導体需要が継続する見込みで工場の新設や増強が相次ぐ。

造成が進む岩手県奥州市の新工業団地「江刺フロンティアパークⅡ」

3月、東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ(山梨県韮崎市)は、半導体製造装置関連の新工場建設で岩手県奥州市と立地協定を結んだ。同市の新工業団地「江刺フロンティアパークⅡ」(造成中)に用地11万2300平方メートルを取得。2025年秋の操業を目指す。総投資額は約220億円という。

同社を主要顧客とするミラプロ(山梨県北杜市)は、先行して奥州市の工業団地「江刺フロンティアパーク」内に真空関連部品などを手がける東北工場を7月に竣工した。投資額は約73億円。竣工式で同社の津金洋之社長は「新たなチャレンジをしていく」とし、次代への一歩を強調した。東北各地で新たな集積が進みつつある。

地域中小企業の設備投資も、国や自治体などの制度を活用して活発だ。ノイズフィルターコイルメーカーのウエノ(山形県鶴岡市)は、使用する銅電線の削減など省資源化を追求した新型コイルの量産体制を三川工場(同三川町)に整備した。上野隆一社長は「新たな需要を切り開く」と意欲を示す。

【関東甲信越】微細加工、問い合わせ増 車関連活性化も視野

ポンプを製造・販売する丸八ポンプ製作所(東京都中央区)の吉田友彦社長は「23年9月期は堅調だ。全体的に(経済が良い方向に)動き始めているのではないか」と話す。

金型部品や微細精密部品の加工を手がける米山金型製作所(長野県松川町)は、微細加工の問い合わせが増えている。また最近では、自動車関連分野の動向も注視している。試作金型の受注が徐々に伸びており、秋以降の自動車分野の更なる活性化を見据えて「コスト軽減も狙い、加工の仕方を見直している」(村松善太郎社長)という。

関東甲信越の景況は上向いている。日銀が7月にまとめた「地域経済報告(さくらリポート)」で、関東甲信越の景気総括判断は「持ち直している」となった。

新潟プレシジョンはMCを駆使して日本刀のミニレプリカを作る

需要項目別では公共投資が「横ばい圏内の動きとなっている」、設備投資は「持ち直している」。生産は「海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けつつも、供給制約の影響が和らぐもとで、横ばい圏内の動きとなっている」となった。景気をけん引する個人消費は「物価上昇の影響がみられるものの、緩やかに増加している」とした。

大和総研が7月にまとめた地域別景況感指数「大和地域AI(地域愛)インデックス」では、関東甲信越は3・7ポイント増と2四半期ぶりに上昇した。

切削・研削・放電加工の新潟プレシジョン(新潟県十日町市)は、生産自動機向け金属部品の受託が多いが、星輝彦社長は「全体の仕事量はまだコロナ禍前ほどない」と明かす。

一方、同社初のBツーC(対消費者)製品として開発し、19年に発売した日本刀などのミニレプリカは拡販の好機とみる。主なターゲットの訪日観光客が増加しているためで、同事業を第2の経営の柱に育てる意向だ。

新潟プレシジョンが商機を見出すように、観光市場は活発化している。7月の全国の訪日外国人(インバウンド)は232万人(推計値)となり、2カ月連続で200万人の大台を突破した。

10日には中国政府が3年半ぶりに日本への団体旅行を解禁し追い風が吹く。関東甲信越の1都10県で構成する関東広域観光機構(旧関東観光広域連携事業推進協議会、横浜市港北区)もインバウンドに特化した事業を進める方針だ。

一方、原燃料や資材高騰の影響は依然として懸念要因となっている。関東甲信越の自治体は、軒並み中小企業への原燃料や物価高騰の影響を緩和するため、支援給付金や事業再構築の支援制度を打ち出した。

原燃料価格の高止まりを受け、群馬県では4日に「パートナーシップ構築宣言の推進と価格転嫁を促す群馬共同宣言」を発出した。群馬県経営者協会、日本労働組合総連合会群馬県連合会など産官労の計11団体が署名し、適正な価格転嫁の機運醸成や県内企業の稼ぐ力の向上などを目指す。

山本一太県知事は「群馬共同宣言により、県として実効性を高める」としている。為替市場では円安傾向が続いており、行政による継続的な中小企業への支援が求められる。

日刊工業新聞 2023年08月21日

編集部のおすすめ