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“現場”の景況は?中小経営者らの取材を基に探る【西日本編】

“現場”の景況は?中小経営者らの取材を基に探る【西日本編】

オークマの可児工場(岐阜県可児市)

東海、近畿、中国、四国、九州の西日本地域の景況は、自動車や建設機械がけん引役となり、おおむね上向いている。半導体関連などで設備投資も活発化する。一方、業種によって生産水準などにバラつきがあるほか、人材不足などの課題もあり、先行きは楽観視できない。

【東海】生産・設備投資、力強く

東海地域の生産・設備投資は力強い状態が続く。日本政策投資銀行の設備投資計画調査では、2022年度実績が前年度比3・7%増(全国は同10%増)、23年度計画が同25%増(同20・1%増)。19年度を100とした指数は22年度が全国94に対し東海地域は103。23年度計画はさらに全国より増加が大きい。

自動車は、トヨタ自動車の23年上期(1―6月)の世界生産が前年同期比12・1%増の489万3771台と過去最高を更新。複数の自動車部品メーカーからも受注量はおおむね安定してきたとの声が聞かれる。ただ、ある中小の二次取引先は「8―9割は回復しているが、本格的には戻ってない」。手がける部品により回復の程度に濃淡があるようだ。

工作機械は、オークマの23年7月の受注実績が前年同月比22・4%減の124億4800万円。前年同月に輸出が単月ベースで過去最高を更新した活況の反動減に加え、「国内外で設備投資を様子見する状況が続いている」(営業部)という。

【近畿】補助金を活用、積極投資

京伸の溶接工場

近畿財務局が7月に公表した管内経済情勢報告の総括判断は、人流の回復やインバウンド(訪日外国人)の増加などで「緩やかに回復しつつある」となり、管内の経済は回復基調にある。さらに23年度の設備投資に関して生産用機械や化学などの製造業ではほぼすべての業種で前年度を上回る見込みとなった。政府の事業再構築補助金などを活用し、企業は積極的に設備投資を行っている。

京伸(大阪府大東市)は約2億円を投じ、大型マシニングセンターの導入や溶接工場の設置を実施。大型ワーク(加工対象物)の溶接から機械加工までを内製化した。辻本奨専務は「納期の管理や外注コストの削減につながる」とメリットを強調する。

業界全体で原材料やエネルギーの高騰による物価高の影響があるものの、近畿財務局の同報告の雇用情勢の項目では「緩やかに持ち直している」と判断。新規求人数は増加傾向にあり、人手不足が長期化する業界もある。

人の確保が難しい中で、企業では生産性向上の取り組みが不可欠だ。ミナミダ(大阪府八尾市)は中小製造業向けに生産ラインで人と協業できるロボットの導入支援サービスを始めた。南田剛志社長は「人手不足に困る中小製造業に採用を提案したい」と語っている。コロナ禍からの回復とともに新しい取り組みが始まっている。

半導体不足が緩和し自動車は高水準の生産が続く(イメージ)

【中国】生産水準、業種でバラつき

農業用機械向け部品などを生産するオカネツ工業の工場

中国経済産業局がまとめた中国地域の6月の鉱工業生産動向は基調判断を6カ月連続で「生産は横ばい傾向」とした。基幹産業の一つである自動車は半導体調達の改善などにより、マツダの1―6月の国内生産が前年同期比25%増え、域内経済をけん引する。また、農業用機械や建設機械向けの部品生産も高水準にある。同部品を手がけるオカネツ工業(岡山市東区)は22年3月期の売上高が前期比2割近く増えた。24年3月期も「若干の増収見通し」(和田俊博社長)という。

一方で化学など素材関連の一部は低調だ。化学(除く医薬品)の6月の生産指数は事業所の定期修理もあり、70を割り込んだ。またスマートフォンやパソコン向けの半導体需要が減り、半導体製造装置も生産が減少する。タツモの23年1―6月期連結売上高は前年同期比19・0%の減収だった。

中国地域の生産水準は業種によってバラつきがあり、今後も一進一退の状況が続きそうだ。

【四国】製造・非製造、増加

政投銀の四国地域の設備投資計画調査によると、23年度は全産業で前年度比21・2%増の3717億円となる見通し。製造業が非鉄金属や化学などの能力増強で同25・3%増と大幅に増えるほか、非製造業も全体では4年ぶりに増加に転じる見込み。

一方、中小企業は設備投資の有無が二極化する。西岡鉄工所(愛媛県新居浜市)の西岡圭社長は「四国地域の塗装需要を取り込む」と、事業再構築補助金を活用し、粉体焼付塗装設備を導入した。

【九州】半導体関連、全域で活発化

熊本県菊陽町で建設が進むTSMCの工場

九州では半導体関連の設備投資が活発だ。自動車産業は半導体供給不足による生産減からの回復が進む。政投銀がまとめた「九州地域設備投資計画調査」によると、23年度の企業による投資計画は「全産業」で前年度比61・7%の増加。調査開始以来最大の伸びで「全国トップの水準。頭一つ抜けている」(水木祐一九州支店長)状況だ。「新たなビジネス、成長を見据えた投資」(同)の意欲が高まる。

半導体関連の設備投資は、台湾積体電路製造(TSMC)が急ピッチで工場建設を進める熊本県をはじめ九州全域で動く。半導体ウエハー製造のSUMCOは、佐賀県吉野ケ里町での工場新設などによる生産力の増強計画を進める。

半導体製造過程の検査用光源装置などを手がけるインターアクションは長崎大学との共同研究拠点として長崎開発センターを7月に長崎市内に開所した。

トヨタ自動車九州(福岡県宮若市)の22年度生産台数は、前年度比7・6%減の33万5910台と3期連続で減少したが、23年度は高級車ブランド「レクサス」で22年に約7年ぶりの刷新となった「RX」がけん引しそう。

日産自動車も22年に主力のミニバン「セレナ」を約6年ぶりに全面改良しており、生産子会社の日産自動車九州(福岡県苅田町)はその効果に期待する。


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日刊工業新聞 2023年08月22日

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