競争激化する「がん治療薬」開発、提携・買収がカギになる理由
迅速な製品投入カギ
世界的に医療ニーズが高いがん領域で、医薬品の開発競争が激化する。モダリティー(治療手段)の多様化やがん治療の高度化が加速する中で、製品を迅速に開発、市場投入し、早期に価値を最大化することが事業成長につながる。こうした中、製薬企業は自社技術による開発の強化に加え、提携や買収といった選択肢を有効に活用しながら競争力を高める。(安川結野)
がん治療薬は2000年代は低分子化合物が開発の中心だったが、現在の主流は抗体を使った医薬品へと変化する。抗体薬物複合体(ADC)は、抗体と低分子化合物を結合させた抗がん剤で、がん組織の分子と抗体が結合してがん細胞を狙って攻撃できる。
国内でADC開発に力を入れてきた第一三共は、乳がんや肺がんの治療薬「エンハーツ」で、がん領域事業を本格化させた。同薬は23年度に世界で売上高3200億円を見込むなど、大型薬(ブロックバスター)として成長を支える。
さらに同社は次なる主力として開発を進めるADC3製品について、米製薬大手メルクと提携する。契約一時金や後払い一時金、販売マイルストーンなど合わせて最大220億ドル(約3兆3000億円)を受け取る可能性のある大型提携だ。奥沢宏幸社長は「3製品の開発を加速し、製品価値を極大化する」と強調。海外での開発に強みを持つパートナーを選定し、競争力強化を図る。
がん治療に求められるスピードの速さも、がん領域の競争が激しい要因だ。武田薬品工業の内田智日本オンコロジー事業部長は「がん領域は疾患や治療に対する研究や医療環境の進化がとにかく早い」と指摘する。こうしたスピードに合わせるには、1社だけのリソース(経営資源)で開発や販売など全て行うことが難しくなってきている。
武田薬品工業は8月に米バイオ企業のイミュノジェンが開発した卵巣がん治療薬「マーブツキシマブ(MIRV)」の日本における独占的開発・販売権を獲得。国内のがん領域の強化を図る。武田薬品工業のがん領域事業は地域ごとに統括しており、迅速な意思決定が可能だ。内田事業部長は「提携ではアンメットメディカルニーズの充足を最重要視している」とし、国内でも進行がんと診断されるケースが多く、新たな治療選択肢が求められていた卵巣がんに対して、有力な候補薬を獲得した格好だ。
医薬品は開発期間が長く、成功確率も高くない。また特許切れ後は後発薬の影響で大きく売り上げが落ちるため、開発や販売拡大の迅速化が重要となる。世界的なメガファーマ(巨大製薬会社)も活発化させている提携や買収は、競争力強化には欠かせない投資となってきている。