第一三共が抗がん剤開発加速…メルクと提携、世界で臨床試験
第一三共は、がん領域の主力製品として集中投資をする抗体薬物複合体(ADC)の開発を加速する。同社は独自技術を用いたADC3製品について、米製薬大手メルクと全世界での開発と商業化契約を締結。全世界での早期商業化を狙う。この契約で第一三共はメルクから契約一時金として受領する40億ドル(約6000億円)に加え、後払い一時金や販売マイルストーンなど合わせて最大220億ドル(約3兆3000億円)を受け取る可能性がある。(安川結野)
ADCは抗体と低分子化合物を結合させた抗がん剤。がん組織の分子と抗体が結合してがん細胞を狙って攻撃できるため、副作用を抑えながら高い治療効果が期待できるモダリティー(治療手段)として注目される。
第一三共は、ADCの価値最大化に向けた開発に力を入れる。乳がんや肺がんの治療薬「エンハーツ」の2023年度の売上高は、前年度比1125億円増の3200億円を見込む。現在も臨床試験が進行中で、適応拡大が進めばさらにグローバルでの成長が期待される大型薬だ。ADCについて第一三共の真鍋淳会長は「価値の極大化に向けて開発力やリソースをさらに強化していく」と力を込める。
今回メルクと共同開発するADCは「パトリツマブ デルクステカン」「DS―7300」「DS―6000」の3製品。パトリツマブ デルクステカンは肺がん治療薬として23年度下期にも米国での承認申請を予定するほか、残りの2製品についても臨床試験が進んでいる。第一三共はエンハーツを軸に25年度のがん領域の売り上げを9000億円まで引き上げる計画を打ち出しており、三つのADCの開発、販売を着実に進め、目標達成につなげる。
こうした海外の大手製薬企業との提携は、費用を抑えた効率的な開発ができるメリットがある。メルクとの提携では、製品ごとに20億ドル(約2998億円)まではメルクが開発費の75%を負担することになっており、第一三共は単独で開発するのに比べ費用を削減できる。開発資金が豊富なメガファーマ(巨大製薬会社)が一度に多くの臨床試験に取り組み、一気に対象となる疾患を増やす戦略をとる傾向にある中、こうした提携は開発の効率向上とスピードアップが期待できる。
一方で、第一三共はこれまでエンハーツなどの開発については英アストラゼネカと進めてきた。今回ADC3製品についてメルクと提携した理由について、真鍋会長は「高いグローバルの開発力を持つことと、金額的にも高く評価してもらった」と説明する。がん領域の開発経験が豊富で多くの国や地域において事業を展開してきたメルクとの提携で、早期の商業化を目指す。