抗がん剤 “体内で” 大量生産、理研・東工大が技術開発
理化学研究所の田中克典主任研究員らは27日、抗がん剤を体内で大量に生産する技術を開発したと発表した。さまざまな有機化学反応に使われ、特定の官能基に対して強い親和性を示す遷移金属触媒に注目。開発した触媒と抗がん剤の材料をマウスに投与すると、体内で抗がん剤を作る化学反応が加速。がん治療の効果が見られることが分かった。新たながんの創薬・治療方法の確立につながると期待される。
東京工業大学との共同研究。成果は英科学誌ケミカル・サイエンス電子版に掲載された。
これまでに遷移金属ルテニウムを含む触媒を開発しており、生体内で抗がん剤の骨格を作るという新しい医薬品の合成法を報告している。より効果を高めるために同触媒に含まれている塩素をヨウ素に代えたところ、血液中に数日存在しても安定的で少量でも化学反応が円滑に進行することが分かった。
がんのマウスに開発した触媒を加えると、体内で抗がん剤を大量に合成でき、治療効果が見られた。薬剤処方に従って抗がん剤をマウス体内に入れるよりも治療効果が高いことを見いだした。がん細胞で選択的に薬剤を合成し、同触媒によって薬剤の濃度を局所的に向上できたためと考えられる。副作用の低減にもつながる。
抗がん剤を使ったがん治療には副作用がある場合が多く、正常細胞にも毒性を示す。副作用を抑える手法として、不活性な抗がん剤の原料を投与し、がん細胞上で活性な抗がん剤に変換する「生体内合成化学治療」が知られている。
日刊工業新聞 2023年09月28日