燃料費調整制度の期ずれで通期増益見通す電力会社、下期は7社が実質赤字か
電力10社の2024年3月期連結業績予想は、数値を公表しない東京電力ホールディングス(HD)を除き、黒字転換または大幅な増益となる見通しだ。電気料金の引き上げや燃料費調整制度のタイムラグ(期ずれ)が差益に転じた影響によるもので、7社が通期見通しを上方修正した。ただ今後は、期ずれが差損に転じ、燃料費が上昇する可能性もあり、下期(10月―24年3月)単独では7社が実質赤字になる見通しを立てている。
通期の業績予想について、関西電力は前回の7月発表時に比べて売上高を2500億円下方修正した半面、経常利益を1450億円、当期利益を1000億円上方修正した。中部電力は売上高を据え置いたものの、経常利益を1000億円、当期利益を700億円上方修正した。
このほかの上方修正額は、九州電力が経常利益500億円、当期利益400億円、中国電力は経常500億円、当期390億円、四国電力は経常200億円、当期125億円、北陸電力は経常150億円、当期100億円、北海道電力は経常・当期とも40億円となる。
液化天然ガス(LNG)や石炭などの燃料価格の低下が数カ月後に電気料金に反映される燃料費調整制度の期ずれ差益が拡大したことや、卸電力市場価格の下落などが要因。東北電力は唯一、通期見通しを据え置いたほか、沖縄電力は具志川火力発電所(沖縄県うるま市)の事故に伴い、経常利益は10億円、当期利益は7億円下方修正した。
ただ下期単独では、総じて厳しい見方をしている。例えば東北電は下期は270億円の差損、四国電は同80億円の差損に転じると見込む。関係者は「これまで期ずれ差損で赤字決算が続いていた。期ずれ差益も一過性に過ぎない」と語る。
一方の23年4―9月期は、当期利益段階で8社が過去最高となった。東電HDも、経常利益では過去最高を示した。ロシアのウクライナ侵攻により前年同期は高騰した燃料費が一転して下落し、燃料費調整制度の期ずれ差益が貢献した。また、これに伴う電気料金の引き上げも影響した。
さらに関電と九電は原子力発電所のフル稼働体制が整い、燃料費の大幅削減が可能になったことも大きい。原発7基を持つ関電の原子力利用率は、前年同期の33・9%から4―9月期は78・3%に向上。4基を保有する九電も同49・9%から92・0%へと大幅に上昇した。東電の柏崎刈羽原子力発電所(新潟県柏崎市・刈羽村)の場合、1基で年間1200億円のコスト削減効果があるという。