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10社中9社が赤字へ、電力大手を襲う燃料・卸電力価格高騰の影響度

電力大手10社の2023年3月期連結業績予想は中部電力を除く9社が経常損益、当期損益とも赤字を見込む。ウクライナ情勢による液化天然ガス(LNG)や石炭などの燃料価格の高騰と、それによる卸電力市場価格の高値が続くことが響いている。この状況を受け各社とも値上げを進め、7社は価格改定に国の認可が必要な低圧規制料金についても値上げを申請した。ただ当面、燃料価格の不確実性は続くとみられ、各社は24年3月期も厳しい経営を迫られる。

10社のうちこれまで通期見通しを出していなかった東京電力ホールディングス(HD)と九州電力も、4―12月期の発表までに公表した。公表している8社のうち北陸と四国の2電力は今回修正せず、経常利益で中部、北海道、関西、中国の4電力が上方修正、東北と沖縄の2電力が下方修正した。

中部電力は1700億円の赤字から600億円の黒字と大幅改善し唯一、黒字を見込む。燃料価格や卸電力価格が想定より下落したことによる期ずれ差損の縮小、子会社のJERAのLNGスポット調達の改善などが寄与する。関電も為替が想定より円高に振れたことによる燃料価格の低下や原発利用率の改善で1450億円改善する。燃料費の減少で中国電は460億円、北海道電も80億円ほど赤字幅が縮小する。

東北電力と沖縄電力は前回公表より悪化する。東北電は燃料費上昇に加え、22年3月の福島沖地震の影響もまだ554億円のマイナス影響がある。沖縄電は火力発電が9割、そのうち6割が最も燃料価格が高騰した石炭という事情がある。

一方、東電HDは5020億円の経常赤字で、03年度に四半期決算を開示して以来、最大の赤字となる。「燃料価格はまだ高く、地域差もあり非常に厳しい状況」(山口裕之副社長)。九州電も1000億円の経常赤字。前期と比べ原発が定期検査で稼働率が下がり700億円のマイナス影響を見込む。

各社で通期見通しの方向が異なる理由は、電源構成差や原発の稼働率が影響する。さらにLNG調達で長期契約とスポットの割合や、足元で価格が下落したスポット調達を利用したタイミング、また余剰LNGの売却益の有無などによる。

ただ、すべての社が燃料費の高騰分を電気料金に上乗せする燃料費調整制度の上限に達している。転嫁できない分は電力会社が負担する逆ザヤ状態となっている。4―12月期は燃料費調整に伴い電力販売価格が上がったため全社が増収となったが、販売量が増えるほどに赤字も増える状況が続いている。

東北、北陸、中国、四国、沖縄の5電力は4月から、北海道と東電HDは6月からの規制料金の値上げを申請し、審査中だ。ただ地域を越えた顧客の獲得を制限するカルテルや、新電力の顧客情報の不正閲覧など国民の不信感を生む事案が相次いでいる。どこまで値上げが認められるかは分からない状況だ。

日刊工業新聞2023年2月6日

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