踊り場RTD好機か、酒税改正「第3のビール」から飲み替え
酒類におけるチューハイやハイボールなどのRTD(ふたを開けてすぐ飲める飲料)市場に変化の兆しが見えてきた。需要増が続いてきたが2022年に前年割れとなった。ただ10月のビール類酒税改正を踏まえ、増税になる第3のビールから税率の変わらないRTDに需要の流出が見込まれる。ビール大手各社はRTDのマーケティング強化に乗り出しており、特に食中酒としての需要拡大を展開しているのがトレンドになっている。(編集委員・井上雅太郎)
メーカー各社によりチューハイやハイボールなどの多様なRTDが提供されたことや、19年ごろからのレモンサワーブームの追い風を受け、前年割れとはいえ22年の市場規模は約2億7100万ケース(1ケースは6リットル)と12年比で2・2倍に成長している。これは減少傾向が続いてきたビール市場と肩を並べるほどの規模。今後の酒税改正でサッポロビールの武内亮人常務執行役員は「第3のビールでコストパフォーマンスを求める人はRTDへ流出する可能性がある」と指摘する。
キリンビールの堀口英樹社長も「今後、中長期にみてRTD市場は拡大する」とし、特に主力ブランド「氷結」で好調な無糖シリーズを中心に販売を強化する。20年に発売した無糖シリーズは食事と合わせやすい食中酒として販売を伸ばし、23年1―7月で前年同期比約43%増と大幅増となっている。
さらに7月にはラインアップを拡充。これまでのレモンとグレープフルーツのフレーバーに、「シークヮーサー」を追加した。23年の販売計画は前年比約7・8%増の1800万ケースを目指しているが、現在はこれを上回るペースが続いている。
サントリーも「食中酒としての展開を重点としてRTD強化を進める」(同社)と、各ブランドに注力する。レモンなどの柑橘(かんきつ)フレーバーに加えプレーンやジンといったすっきりとした味わいを拡充している。例えばチューハイ「こだわり酒場」シリーズとしてプレーン風味の「タコハイ」を投入しており、23年の販売計画を当初の2倍の500万ケースに上方修正している。
ジン「翠(すい)」のRTD「翠ジンソーダ缶」では7月にリニューアルし、ユズの香りを高め、炭酸も強化し爽快感を強めている。さらに主力ブランド「マイナス196℃」では、今春に食中酒として甘みを抑えた「瞬間凍結〈無糖レモン〉」「ウメ」を発売した。23年に500万ケースの販売を目指す。
サッポロビールは“定番の食中酒”としてのRTDを強化していく。第1弾として今春発売した缶チューハイ「サッポロ ニッポンのシン・レモンサワー」は3カ月で出荷数量が2000万本(約84万ケース)を突破し、23年販売目標の176万ケースを上回る勢い。
さらに10月の酒税改正により「ユーザーの(需要の)変化を捉えて、第2弾の定番の食中酒を提案する」(武内常務執行役員)とし、缶チューハイ「サッポロ クラフトスパイスソーダ」を9月12日に発売する。8種の香辛料を使い、食事を引き立てる食中酒に仕上げた。これらにより23年の同社RTD販売目標で前年比18%増の大幅増を目指している。