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台風の目は低価格「サントリー生ビール」か…酒税改正で激化するビール市場競争の行方

台風の目は低価格「サントリー生ビール」か…酒税改正で激化するビール市場競争の行方

ビールの販売競争は激しくなりそうだ

10月のビール類(ビール、発泡酒、第三のビール)の酒税改正で、ビール大手4社が実施する価格改定によりビール市場の競争が激化する。缶ビールは350ミリリットル当たり6・65円の減税分は値下げが見込めそうだが、業務用(瓶・樽)を除きそれ以外は増税や物流費増などで値上げになる。値下げになるビールへの需要シフトをめぐりシェア争いに拍車がかかる。価格改定が起点になるだけに「低価格戦略」で発売した「サントリー生ビール」が台風の目になる可能性もある。(編集委員・井上雅太郎)

酒税改正で税率はビールで350ミリリットル当たり6・65円下がる一方、第三のビールが同9・19円上がり、発泡酒と並ぶ。各社が価格改定を相次いで発表したのは「流通・卸と10月の価格の交渉を始めたタイミング」(業界関係者)と指摘する。

アサヒビールでは「缶ビール『スーパードライ』は出荷価格で減税分は下がる。ただ『スーパードライ生ジョッキ缶』は特殊容器のためコスト増があり、減税分との差し引きがある」と説明。キリンビールも「『一番搾り』『スプリングバレー』が値下げ。業務用は減税分よりコスト増が上回りそうだ」とみる。4社で共通なのは発泡酒と第三のビールが値上げになる点。税率の変動のない発泡酒(缶)までが値上げになることについて、「発泡酒は利益幅が少なくコスト増を吸収しにくいため」(アサヒビール)と明かす。

価格改定は減税分はあるが、コスト増を踏まえた値上げの要素が大きくなりそうだ。いずれにしても缶ビールの値下げだけが目を引くことになり、主戦場が「スーパードライ」「一番搾り」「黒ラベル」といったメジャーブランドがひしめくスタンダードビールのカテゴリーになることはほぼ間違いない。

売れ行きが好調な「サントリー生ビール」

すでに各社がビールシフトを打ち出し、販売戦略を強化している。ここで注目を浴びているのがサントリーが4月に発売した「サントリー生ビール」の動向だ。西田英一郎ビールカンパニー社長が「酒税改正で機が熟した」とスタンダードビールに新たに投入。「スーパードライ」や「一番搾り」など競合商品に比べ1缶当たりの価格が10円ほど安い。他社が値上げを実施した2022年10月以降にサントリーだけが据え置いたことを踏まえた価格設定とみられる。

発売から2カ月弱の5月末までに初年度目標の5割に当たる150万ケースを突破する快進撃で、上方修正の可能性も高い。10月にさらに値下げになれば、低価格が際立つ存在になる。早期に1000万ケースという目標も射程圏内に入る。

サッポロビールが「ビールの価値をさらに上げていく」方針を打ち出し、他社で低価格に追随する動きはみられないが、サントリーの動きが台風並みに勢力を発達させるのか、業界各社は関心を強めている。

日刊工業新聞 2023年06月21日

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