鹿島・清水・大成…ゼネコンの私募REIT運用が相次ぐ背景事情
ゼネコン大手による私募の不動産投資信託(REIT)が存在感を高めている。大成建設はこのほど、オフィスビルや物流施設など自社開発物件を対象とする「大成建設プライベート投資法人」を始動。鹿島は2018年にいち早く組成し、清水建設も1月に運用を始めた。戸田建設も2025年の組成を計画する。私募REITの活用で安定収益が見込める不動産開発事業を拡大し、資材高などに影響される建設事業に次ぐ柱に育てる。
大成建設は大成不動産投資顧問(東京都新宿区)を通じ、私募REITの運用を開始。当初の資産規模は約150億円で、3―5年後をめどに500億円に拡大する計画を打ち出した。一方、清水建設の私募REITは当初の資産規模を約370億円とし、数年内に約1000億円に拡大する計画。いずれも環境性能や事業継続計画(BCP)への対応など付加価値の高い自社開発物件を投資対象に組み込んでいる。
ゼネコンによる不動産開発は、以前は仕入れた土地を不動産会社などに売り込んで建物の受注を獲得しようとする「造注」が主体だった。ただ、これは労働集約型の建設業が施工能力を維持するための「工事量の確保」を目的としたものだ。これに対し、ゼネコン大手が足元で注力する不動産開発はまったく性質が異なる。背景にあるのは、主力の土木・建築事業の先行きに漂う不透明感だ。
ゼネコンは近年、建設事業に次ぐ新たな収益源の確立に重きを置いている。少子高齢化の影響で、国内の建設投資は段階的に縮小していく公算が大きい。老朽化したインフラの再整備や都市部の再開発など単発の需要は見込めるものの、資材高や担い手不足の問題を抱える。そこで各社が志向するのが、自社開発物件を長期保有して賃貸収益を得る「不動産大手に近い動き方」(大手幹部)だ。
私募REITの立ち上げで“出口”を確保できるだけでなく、売却益を含む回収した資金を次の不動産開発に充てることが可能になる。不動産の長期保有で生じる各種リスクも軽減できる。最近は、不動産大手のように街づくりを手がける例も増えた。ただ「デベロッパーと競合するつもりはないし、そのリソースもない」(同)。あくまで本業を補完する手段としての位置付けを明確にする。
実は不動産大手から見ても、ゼネコンが単純な施工の請け負いから街づくりに“進出”してくるメリットは大きい。「設計・施工力やコスト競争力だけでなく、環境性能やウェルビーイング(心身の健康と幸福)に寄与する提案力を期待する」(不動産大手)との声も聞かれる。ゼネコンも建物の企画・設計から深く参画することによって、より訴求力の高い建物を仕上げていく絵を描いている。