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清水建設・大林組…不動産開発を活発化するゼネコンの危機感

清水建設・大林組…不動産開発を活発化するゼネコンの危機感

ゼネコン大手各社は、単なる施工業者から脱し、街づくりのパートナーへの転換を志向する(東京都心部)

ゼネコン大手による街づくりが活発だ。2022年以降の開業だけでも清水建設による「ミチノテラス豊洲」(東京都江東区)、大林組京浜急行電鉄などと進める「横浜シンフォステージ」(横浜市西区)など大型物件が増加。自社で組成した私募の不動産投資信託(REIT)を活用する例も目立つ。各社は開発事業を建築・土木に次ぐ柱と位置付け、施工業者から街づくりのパートナーへの転換を志向する。(堀田創平)

私募REIT、存在感高める 回収資金を次の開発に

ゼネコンにとって、不動産開発は本業との親和性が高い領域だ。単体の中型ビルなどに対する開発の経験は豊富で、かつては仕入れた土地を不動産会社などに売り込むことで建物の受注を獲得する「造注」が主体だった。ただ、これは労働集約型の建設業が施工能力を維持するための「工事量の確保」が目的だ。一方、ゼネコン大手が足元で重きを置く不動産開発は性質の異なるものだ。

ゼネコンは今、建設事業に次ぐ新たな収益源を確立する必要に迫られている。背景にあるのは、主力の土木・建築事業の先行きに漂う不透明感だ。少子高齢化の影響で、国内の建設投資は段階的な縮小が濃厚だ。もちろん老朽化したインフラの再整備や都市部の再開発など単発の需要は見込めるが、慢性的な担い手不足を抱える中で「いずれ施工余力もなくなる」(大手幹部)と危機感は強い。

そこで各社が掲げるのが、不動産開発を第3の収益源に育てようという試みだ。単なる受注支援にとどめず、自社開発したオフィスビルやホテル、物流施設を長期保有することで安定的な賃貸収益を得る「不動産大手に近い動き方」(同)だ。早期に売却する例もあったが、存在感を高めているのが私募REIT。先行する鹿島に続き、清水建設や大成建設も2023年の組成を計画している。

私募REITを立ち上げることで“出口”を確保できるだけでなく、売却益を含めて回収した資金を次の不動産開発に充てることが可能になる。不動産の長期保有で生じる各種リスクも軽減できる。「我々の本業はモノづくり。不動産開発は本業を補完するという位置付けは変わらない」(大手幹部)と強調するゼネコン各社にとっても、有効な手段であるといえそうだ。

清水建、機能アップデート “陳腐化しない街”

ただ、ここにきてゼネコンによる不動産開発は大型化する傾向が強まっている。最近はいわゆる街づくりを主導する例も増え、ゼネコンが“お客さま”である不動産デベロッパーの領域を浸食するようにも映る。だが、各社は「デベロッパーと競合するつもりはないし、そのリソースもない」と断言。各社が思い描くのは「単純に施工を請け負うだけの存在からの脱却」だ。

自然光が降り注ぐアトリウムを設置(清水建設が開発した「ミチノテラス豊洲」のオフィス棟)

脱炭素社会の実現に向け、足元では街づくりにも最先端の環境対応技術やデジタル化の知見が求められるようになった。ある不動産大手は「ゼネコンさんには設計・施工力やコスト競争力以上に、環境性能やウェルビーイング(心身の健康と幸福)に寄与する提案力を期待している」と明かす。

ゼネコンも建物の企画・設計から深く関与できれば、より効果的な計画を練ることができる。街全体に最先端技術を織り込んだスマートシティーの構築や、効率的なビル管理などが好例となる。

清水建設が4月に開業した大規模複合開発「ミチノテラス豊洲」(東京都江東区)は、同社の単独開発では過去最大の600億円を投じたスマートシティーだ。建物の設備を一元管理する独自の基本ソフト(OS)「DXコア」を実装。働く人・訪れる人や時代によって変化するニーズを踏まえ、機能をアップデートしていく“陳腐化しない街”だ。

DXコアは照明や空調といった建築設備やIoT(モノのインターネット)デバイス、それに各種アプリケーションを相互に連携させるための基盤で、サービスの新規導入やアップデートなどを容易にする。

独自の3Dプリント材料「ラクツム」を適用した柱(清水建設が開発した「ミチノテラス豊洲」)

ミチノテラスの位置付けについて、清水建設投資開発本部企画管理部の大藤幹彦部長は「デジタルゼネコンを標榜する当社にとって、最先端技術を提供する実証の場」とする。まずは現実世界をデジタル空間上に再現する「デジタルツイン」技術を活用し、設計・施工から建物の運用管理までをコントロール。その上で建物から集めた人流データやエネルギーなどの情報を検証・活用し、街区全体の生産性や利便性の向上につなげる絵を描く。

もちろん、リアル空間にも同社の技術が投入されている。12階建てのオフィス棟には、中央部に屋上からやわらかな自然光が降り注ぐアトリウムを設置。「当社の高い設計・施工力を訴求したもの」(大藤部長)で、開放的な空間を実現した。交通広場には、建設用3次元(3D)プリンターで作成した柱などを採用している。

大林組、建物全体に環境対策 「クリーンクリート」を採用

横浜・みなとみらいで建設中の大規模複合開発「横浜シンフォステージ」は、大林組が京浜急行電鉄や日鉄興和不動産、ヤマハと手がける「足元で最も力を注いでいる物件の一つ」(大林組開発事業本部開発推進第三部の鈴木敬一部長)だ。約1000億円の総事業費を投じ、幹事会社としてゼネコンならではの要素技術をふんだんに盛り込んだ。24年3月の竣工を前に、入居を希望する企業が相次いでいるという。

大林組などが開発する「横浜シンフォステージ」(イメージ)

特に評価されているのが、建物全体に施した環境対策だ。地下躯体には、製造工程の二酸化炭素(CO2)排出量を低減した独自のコンクリート「クリーンクリート」を採用。熱負荷を抑える外装や各種センサーによる設備機器の自動制御などを駆使し、エネルギー消費の抑制と快適なオフィス環境を両立した。

入居する企業の事業継続計画(BCP)にも、大林組の知見が生きている。独自の制震装置などの活用で高い制震構造を実現したほか、コージェネレーション(熱電併給)システムを導入し、停電時も72時間の電力供給を可能にした。

開発事業本部企画部の田中克宜部長は「ゼネコンとしては、まずは最高の建物を仕上げたい。それが工事を受注するアピール材料にもなる」と話す。シンフォステージでは設計・施工にリーシングやホテル運営など参画各社の強みを補完し合う体制が完成した。「まさにいいとこ取りの理想形で、コンペでの提案にも厚みが増した」(同)と明かす。

日刊工業新聞 2022年12月21日

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