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IHI・川重・千代化…活発化する「水素で供給網」構築の今

IHI・川重・千代化…活発化する「水素で供給網」構築の今

商用化が期待される液化水素運搬船(イメージ)

IHI川崎重工業、千代田化工建設が水素キャリアである燃料アンモニア、液化水素、メチルシクロヘキサン(MCH)を海外生産し、輸入する体制構築を進めている。現在の液化天然ガス(LNG)運搬船と同規模の液化水素運搬船などを開発し、2030年以降の実現を目指している。脱炭素化に向け、次世代エネルギーをめぐる動きが活発化してきた。(いわき・駒橋徐)

IHI アンモニア専燃推進

IHIは、JERAが23年度から碧南火力発電所(愛知県碧南市)で予定する石炭とアンモニアの混焼実証に参画している。実証では100万キロワットの石炭火力1基でアンモニアを20%混焼する。将来はアンモニア専焼を目指す。

IHIは相生工場(兵庫県相生市)に導入した2000キロワットのアンモニア専焼ガスタービンで24年度から長期耐久テストを実施し、27年度以降に市場導入する計画だ。米ゼネラル・エレクトリック(GE)製の8万―30万キロワット級の大型ガスタービンによるアンモニア専焼も目指す。

アンモニアの確保に向け、受入基地は出光興産と共同で出光徳山事業所(山口県周南市)を活用する。グリーンアンモニアの生産と供給ではアラブ首長国連邦(UAE)のエミレーツ・ナショナル・オイル・カンパニー(ENOC)、マレーシアの国営石油ガス会社であるペトロナスと事業化に向けて調査を開始。インドの再生可能エネルギー事業大手のアクメ、豪州のエネルギー大手のウッドサイドエネルギーなどとも同様の取り組みを進める。

川重 大型の液化水素運搬船開発

「液化水素の国際サプライチェーン(供給網)は世界の多くの企業・団体から事業化調査の引き合いが来ており、関西電力とは覚書を交わした。グリーン水素を含むグローバルサプライチェーンを構築していく」と話すのは、川崎重工業水素戦略本部副本部長の山本滋執行役員だ。

同社が設計・製造した液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」は全長116メートル、総トン数約8000トン。豪州・ビクトリア州産の褐炭から水素を製造・液化し、日本に海上輸送する実証に利用した。

30年度に実証に向けた設計に入る計画の商用船はLNG船と同規模の4万立方メートルの球形タンク4基を搭載。全長約346メートル、幅約57メートル、タンク容量16万立方メートルとなる。水素を推進燃料などに利用し、エンジンは水素ボイラと蒸気タービンを組み合わせる。

千代化 MCH、常温常圧で安全供給

千代田化工建設はMCHを常温常圧で安全に供給するグローバルネットワークの事業化を目指す。液体のMCHを製造・輸送し、需要側のサイトで水素をMCHから分離。トルエンはMCH生成のための原料として再利用する。実証事業ではブルネイで製造して海上輸送し、川崎市で脱水素化した。

発電に利用する実証を進めてきており、スコットランド政府、ロッテルダム港湾公社など10企業・機関による国際コンソーシアムのパイロットプロジェクトを開始した。スコットランドで天然ガスや再生可能エネルギー由来の水素によりMCHを製造。オランダ・ロッテルダム港へ輸送する「水素ハイウエー」を検討中だ。

シンガポールでは三菱商事、シンガポール企業など5社が協力してMCHの供給ネットワーク作りを進める。中東やチリ、豪州などでも事業化調査を行う構えだ。

国内では港湾を基点にコンビナートなどでの水素供給基地の整備を目指す。「既存のアセットを活用できる利点を生かし、早期にMCHのバリューチェーン構築を目指す」(井上泰宏フロンティアビジネス本部水素事業部長)としている。


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日刊工業新聞 2023年月6月13日

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