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LNGからの転換。重工、プラント大手が水素ビジネスを狙う

LNGからの転換。重工、プラント大手が水素ビジネスを狙う

川重の液化水素運搬船

重工業やプラント建設・機器の大手が、次世代エネルギーとしての水素の事業化に動いている。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を目指す動きが世界的に活発化する中、利用時に二酸化炭素(CO2)が発生しない水素エネルギーをめぐるビジネスチャンスに期待する。各社はその追い風をとらえ、液化天然ガス(LNG)などを主力とする現在のエネルギー事業を発展させる。(戸村智幸)

【脱炭素化加速】発電・航空機など利用期待

水素航空機のビジネスをめぐり川重と欧エアバスが提携(12日)

「水素航空機の実現と普及には空港の水素インフラ構築が必須だ」―。12日、航空機での水素利用分野において川崎重工業と提携したエアバス・ジャパン(東京都港区)のステファン・ジヌー社長はこう力を込めた。両社は水素の生産から空港への輸送、航空機への供給までのサプライチェーン(供給網)構築について、2023年2月まで共同で課題などを調査する。欧エアバスは35年までに水素燃料の航空機、川重は30年に液化水素運搬船の商用化をそれぞれ目指しており、水素を軸に国境を越えて手を組む。

水素エネルギービジネスが胎動を始めた。同エネルギーは発電や自動車、航空機など運輸での利用が期待される。特に再生可能エネルギーで発電した電気を使って、水を電気分解して生成する「グリーン水素」は生産時にCO2を排出しないため、カーボンニュートラル実現の手段として注目される。

これまで重工業やプラント建設・機器の各社は、LNG関連を主要事業に成長してきた。重工業大手はガス火力発電のガスタービンなどの機器を手がける。プラント建設大手は、LNG生産プラントの設計・調達・建設(EPC)が主力だ。

LNGは石炭よりも環境負荷が小さく、当面は主要エネルギーであり続ける。だが、カーボンニュートラルに向け、長期的には依存度低下が求められる。その穴を再生エネと水素が埋めると見込まれる。

国内外で水素への期待は高い。国際エネルギー機関(IEA)は世界の水素需要が19年に約7100万トンだったのが、50年には約2億9000万トンに増えると予測する。発電や運輸、合成燃料製造での需要が伸びる。50年以降も成長を見込む。日本政府は20年公表のグリーン成長戦略で、水素の導入量目標を30年に最大300万トン、50年に2000万トンとした。

【生産・輸送】他業種と連携

水素エネルギーのビジネスは、生産から輸送、発電や運輸での利用までのサプライチェーン全体にまたがる。重工業やプラント建設の各社は他業種の企業と組むなどして商機を伺う。生産や輸送には手法の違いがあり、各社の特色が出る。

川重は液化水素運搬船や液化機などの機器を持ち、豪州と日本でのサプライチェーン構築を目指す。豪州で未利用資源の褐炭を原料に水素を製造。その水素をマイナス253度Cに冷却・液化し、液化水素運搬船で国内へ輸送する。神戸市内の荷役基地から各地に運び、水素発電などに提供する構想だ。岩谷産業、Jパワーなど7社との共同実証では21年12月から2月にかけ、液化水素運搬船での日豪間の輸送に成功した。商用化を加速し、30年に水素関連で売上高3000億円、営業利益率15%以上を目指す。

液化水素の川重に対し、千代田化工建設はトルエンとの化学反応による輸送での事業化を目指す。水素をトルエンと結合してメチルシクロヘキサン(MCH)という液体にして輸送し、貯蔵後にMCHから水素を取り出して利用する。

特徴は常温・常圧で輸送できることと、運搬船など既存の石油・ガス産業の機器を使えることだ。液化水素よりエネルギーロスが大きい課題はあるが、榊田雅和会長兼社長は「トータルで経済的なメリットがある」とコスト優位性を強調する。

事業化への準備も進める。21年10月に三菱商事とシンガポール企業と組み、同国での水素サプライチェーンの事業調査で提携した。外国から水素を輸送し、同国で供給して発電などに利用する構想で、24年ごろに事業の投資決定がなされる見通しだ。

川重と千代田化工がサプライチェーン全体を見据えたものに対し、各行程でも具体的な動きが出てきた。IHIは豪州でグリーン水素を太陽光発電から生産する実証プラントを建設する。クイーンズランド州営電力会社のCSエナジーからEPCを3月に受注したもので23年8月に稼働する。世界でグリーン水素のプラントが計画されており、さらなる受注を狙う。

三菱重工業の水素実証設備(イメージ)

機器開発も進む。三菱重工業は水素を燃料にしたガスタービンの25年の商用化を目指している。大型では30%の混焼、中小型では専焼を計画する。高砂製作所(兵庫県高砂市)で23年に水素生産から発電までの実証設備を稼働する。

ポンプ大手の荏原、日機装はそれぞれ、液化水素用ポンプを開発中だ。ともにマイナス162度CのLNG用ポンプを手がける経験を生かす。荏原の浅見正男社長は「液化水素の運搬の役に立つ」と意気込む。

【LNG10倍のコスト課題】取扱量増加が不可欠

各社が水素エネルギーの事業化に向けた取り組みを活発化させるが、課題はある。一番はコストだ。資源エネルギー庁によると、液化水素のサプライチェーン全体のコストは1ノルマル立方メートル約170円で、LNGの10倍ほどだ。コスト削減には、機器の大型化による取扱量増加が不可欠だ。

川重は液化水素運搬船を現状の128倍の積載量に大型化するなどして、30年には同約30円に下げる計画だ。さらに50年には流通拡大により、同約20円にするという。橋本康彦社長は「石油やLNGと同じコストにできる」と見通す。

「鶏が先か、卵が先か」問題に陥らないように、サプライチェーン全体でコスト削減と取り扱いやすさを実現できるかが普及のカギとなる。

【資金面で後押し】NEDO、供給網構築に3000億円

政府はカーボンニュートラルに向けて水素を重視する。21年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画では、30年度の電源構成見通しで、水素・アンモニアを1%と位置付けた。数値は少ないが、盛り込んだのは初だ。水素のガス火力発電への混焼や、石炭火力発電へのアンモニア混焼を視野に入れる。水素はアンモニアの原料になる。

企業の水素事業も資金面で後押しする。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は21年に策定した総額2兆円の「グリーンイノベーション基金事業」のうち、水素サプライチェーン構築に最大3000億円、水を電気分解する装置による水素の国内生産体制構築に最大700億円を配分する。

日刊工業新聞2022年4月22日

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