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生成AIどう使う?ソフトバンク・旭鉄工・大和証券…先行事例に学ぶ

生成AIどう使う?ソフトバンク・旭鉄工・大和証券…先行事例に学ぶ

チャットGPTを業務効率化に利用するだけでなく、サービスに生かすケースも出てきた

「Chat(チャット)GPT」に代表される生成AIの導入が企業で広がってきた。事務的な作業にとどまらず、創造性やノウハウを必要とする業務での活用も見込まれる。一方、情報漏えいリスクなど課題もある。いち早く生成AIの利用に踏み出した企業の取り組みをリポートする。(特別取材班)

「改善活動」を円滑化・英文レポート翻訳要約

エンジンや変速機の部品を手がける旭鉄工(愛知県碧南市)。生産現場などでの「改善活動」でチャットGPTの利用に乗り出した。同社の改善活動ではノウハウや事例を集めた「アイテムリスト」が活躍する。ただ事例件数が膨大になり、探すのにこつが必要になっていた。

そこで白羽の矢が立ったのがチャットGPT。アイテムリストを学習させ、事例をスムーズに検索できるようにした。「シンプルな電力削減事例を分かりやすく」といった自然な言葉での検索も可能で、アイテムリストの利便性が高まった。

「死ぬほどポジティブ。社員には『使い倒せ』と言っている」―。ソフトバンクの宮川潤一社長は、生成AIの活用に前のめりだ。チャットGPTを活用した同社版のチャットサービスの展開を社内で始めた。全従業員約2万人が対象。業務利用で必要な知識を身に付ける教育プログラムも6月に始める。

大和証券も4月から全社員約9000人を対象にチャットGPTの利用を開始し現在、1日当たり全社員の1割程度が業務に活用している。

特に「翻訳と要約の機能を活用し、事前に英文リポートの概要をつかむのに役立っている」(大和証券)という。また、プログラミングのコード生成も利用頻度が高く、業務効率化につながっている。顧客と接する時間や企画立案など本来業務に充てる時間を創出する効果も狙う。

チャットGPTの導入を間近に控える企業も多い。伊藤忠商事は6月中をめどにチャットGPTを社内業務に導入する。資料作成や翻訳などに活用して生産性向上を検証する。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は今夏をめどに社内ネットワーク上で生成AIを利用できる環境を構築する。企画書の作成や事務手続きの照会対応などでの利用を想定する。

自社の業務効率化にとどまらず、サービスに生かすケースも出てきた。ファースト・オートメーション(名古屋市西区)は、チャットGPTでロボットシステムの仕様書を作成するサービスの展開を製造業向けに5月に始めた。過去に作成した仕様書をチャットGPTに読み込ませ、顧客の様式に合わせた仕様書を自動で作成する。伊藤雅也社長は「既存の仕様管理サービスとの相乗効果を狙う」と意気込む。

自治体でも試験活用開始

自治体も生成AIの利用を探る。神戸市では5月に神戸市会が、市役所業務におけるチャットGPTなどの生成AIの利用ルールを定めた条例改正案を可決した。6月中をめどに職員約100人から試験的に利用を始める。幅広い業務で有効な活用方法を探る。

導入が広がりつつある生成AI。ただ著作権侵害、情報セキュリティーなどで課題がある。このため各社ともに導入とセットで対策を用意する。社員1万人を対象に利用を始めたKDDIは、情報漏えいリスク防止のため、外部からアクセスできないようにした。また社内規定として顧客の個人情報などの機密情報の入力を禁止した。

ホンダは法令や社会規範、就業規則、機密情報取り扱いのルールなどを順守して利用するよう社内通達を出した。特に、利害関係者の個人情報や同社独自のデータを入力しないよう注意喚起した。

“様子見”もいまだ多く 国際ルール未整備、活用の壁

文章や画像、音声、プログラムコードなどを自動でつくる生成AI。文章の作成や翻訳、情報収集など事務作業の効率化だけではなく、営業・マーケティングにおける企画・アイデアの立案や製品開発におけるプログラミング支援など、創造性やノウハウを必要とする業務においても活用が見込まれている。

ただ今のところ、具体的な活動で生成AIを活用している企業は、ごくわずかとみられる。PwCコンサルティング(東京都千代田区)が3月31日―4月3日に国内の1000人以上を対象に実施した調査において、生成AIの認知度合いを尋ねたところ「業務で活用している」と回答したのは3%。生成AIを「全く知らない」としたのが54%で最も多かった。同調査後、世間の認知度が向上している可能性はある。だが、同調査をまとめた三善心平執行役員パートナーは「生成AIの使い方や活用に向けて必要な準備、リスクなどが分からず、様子見の企業は多いはず」と推察する。

実際、国際的な生成AI活用のルールづくりは始まったばかり。事実誤認、情報漏えい、著作権侵害といった生成AI活用のリスクが指摘される中、企業が慎重になっている側面はあるはずだ。

一方で「従来のセキュリティーの考え方の延長線上で十分(生成AIを)使える領域もあるはずだ」(PwCコンサルティングの三善役員)との見方もある。医師国家試験に受かるレベルに達した生成AIも登場する中「工夫次第で多くの可能性がある」(同)。

リスク対策、官民で国産モデル開発

他方、将来的には、より踏み込んだリスク対策について社会全体で議論を深める必要がありそうだ。というのも、より広範な業務で生成AIを活用したいというニーズが生まれた場合、企業は自社のデータをどの程度まで生成AIに学習させるのか、線引きが難しいからだ。

生成AIの高度化には、データの入力量を増やす「学習」が欠かせない。一方、企業にとって、自社の技術やノウハウに関わるデータは重要な資産でもある。「それらが流出すれば、(生成AIの基盤である)大規模言語モデル(LLM)提供ベンダーが独り勝ちしていく」(同)ことになり、ユーザー企業は自社の価値を損ないかねない。

こうしたリスクへの対応として一つの解となりそうなのが、国産生成AIの開発だ。経済産業省は生成AIの国内開発に必要なデータ整備や半導体の技術開発を支援する方針。NTTが法人向けのLLMの商品化を2023年度中に目指すほか、NECも独自の生成AIの開発を進める。 

日刊工業新聞 2023年06月07日

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