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「チャットGPT」でGPU需要増…半導体装置市場はAIで変わるか

「チャットGPT」でGPU需要増…半導体装置市場はAIで変わるか

東京エレクトロンが手がけるプローバ

新たな人工知能(AI)時代の幕開けは、半導体製造装置市場を変えるのか―。米オープンAIが2022年に公開した「チャットGPT」は、質問に巧みに回答する高度な対話能力を備え、世界に衝撃を与えた。人間性の根幹である言語や創造の領域に進出するAIの登場は、ビジネスや社会のあり方を劇的に変える可能性をはらむ。現状は期待先行の面があるが、活用が広がれば画像処理半導体(GPU)などの需要を押し上げ、製造装置市場への恩恵も期待できる。(山田邦和)

「(米アップルのスマートフォン)『iPhone(アイフォーン)』が登場した時のような革命がAIで始まった」。米半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は23年3月に同社が開催した開発者向け会議の基調講演でこう語り、与えられたデータから新たに文章や画像をつくり出せる生成AIへの期待を隠さなかった。

米大手IT企業の設備投資額

ブームの火付け役はチャットGPTだ。チャットGPTは質問を投げかけると、回答を自動で生成する“対話できるAI”。これまでも画面やスピーカーを通じて話しかけられるAIは存在したが、その回答は定型的で、連続性のある対話は苦手だった。

一方、チャットGPTはやりとりの文脈を踏まえ、まるで人間が答えているかのような自然な回答が得られる。オープンAIが22年11月に無料公開すると、利用者は2カ月で1億人を突破。書類の下書きや企画案を作成させたり、“パートナー”として対話して考えを深めたりなど、世界で急速に利用が広がる。

AIに必要な要素は三つある。答えを導くための「モデル」、そのモデルに学習させて最適化するための「データ」、そして計算を実行する「ハードウエア」だ。10年代以降、スマホやソーシャルメディアの普及で、比較的容易に収集できる大量のデータが日々ウェブ上に生み出されてきた。

ハードについても複数の計算を同時にこなすことが得意なGPUを演算に使うことで、データ学習に必要な時間の大幅短縮が可能になった。AIの性能は進歩し、10年代半ばには米マイクロソフトや米グーグルのAIが画像認識で人間の精度を超え始める。画像や音声の「認識」やデータを基にした異常の「検知」など、人間の知覚の役割を担うAIが、自動化の進んだ工場や運転支援機能を備えた自動車などで使われるようになった。

一方、「生成」分野でのAI活用は進まなかった。人間の言葉を扱う自然言語処理で精度が上がらなかったことが大きい。文の構造や文脈を理解し、省略された単語を補って推定するなどの高度な能力を獲得することが、従来の深層学習モデルでは難しかったためだ。

アドバンテストのテスターは米エヌビディアで使われているとみられる

流れが変わったのは17年。文脈中の重要な単語に注目できる「トランスフォーマー」という手法をグーグルが開発した。単語ごとに重要度に応じた得点をつけるなどすることで、重要単語が複数ある場合でも、高い精度で文脈を理解しやすくした。

文頭から順番に一つずつ単語を処理する必要がなく、従来手法に比べ処理速度も速い。学習データが大規模になるほど予測精度が向上するのも特徴だ。チャットGPTはトランスフォーマーを用いることで、ウェブから集めた膨大な単語を学習。それをGPUを使って並列処理することで、自然な文章の生成を可能にした。

生成AI開発競争激化

チャットGPTの登場は、米IT大手5社GAFAMの生成AIをめぐる開発競争に火をつけた。マイクロソフトはオープンAIとの連携を表明。グーグルは独自の対話型AIを公開し、チャットGPTに対抗する動きを示す。

生成AIが大量のデータを学習するには、高性能なGPUを備えた多数のサーバーと、それらを収める大規模データセンター(DC)が欠かせない。

「今後、プラットフォーマー各社によるAIへの投資が大規模になるほどサーバー投資を通じ、巨大なGPU需要が生まれる」と、楽天証券経済研究所の今中能夫チーフアナリストは指摘する。大規模データセンター用GPUで高シェアを握るエヌビディアは22年、計算量の多いAI向けに特化したGPUの最新モデルを発売するなど、市場拡大を見据えて手を打っている。

半導体投資の活況は半導体製造装置メーカーにとって追い風となる。「GPU分野での当社のポジションは、今後(業績面での)福音として現れてくる可能性がある」。アドバンテストの三橋靖夫経営執行役員は4月26日の会見でこう話した。エヌビディアはアドバンテストの検査装置(テスター)を使用しているとみられる。

データセンター向けのGPUは、HBMなどの3次元(3D)実装DRAMメモリー半導体とともに使われる。これら高速DRAMの需要も拡大が予想されるため、プラスの効果は他の製造装置メーカーにも広がりそうだ。前工程ででき上がったウエハーを後工程に送る前に行う検査用の装置(プローバ)は東京エレクトロンや東京精密が手がける。

半導体製造装置市場は22年秋にピークに達した後、下降局面が続く。米政府が発動した対中国輸出規制の影響や、メモリー半導体メーカーの設備投資計画の下方修正などが背景にある。需要の落ち込みは少なくとも23年度下期まで続くというのが業界のメーンシナリオだが、生成AI関連の投資がけん引役となって製造装置需要が23年4―6月に底打ちした後、一気に回復する可能性もある。

一方、生成AIの学習データの不正確な情報が原因の誤りにどう対応するかなど、本格活用に向けて乗り越えなければならない課題も多い。世界経済の先行きなど不透明要素も増す中、半導体製造装置メーカーは慎重だ。アドバンテストの三橋経営執行役員は「(生成AI関連の需要が伸びるのは)マクロ経済や民生品需要の回復が前提。今後半年ほどかけて状況を見極めたい」としている。


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日刊工業新聞 2023年月5月9日

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