世界最高水準の研究大学へ、東大が計画する独自基金1兆円のインパクト
東京大学は世界最高水準の研究大学に向けて25年後に独自基金を1兆円、運用益は年500億円とする計画を明らかにした。国際卓越研究大学の認定を視野に入れ、自主財源を拡充する。スタートアップ支援では年300件の創業を実現。企業との共同研究などによる産学協創事業では年5%の成長を目指す。欧米の先進大学より公共性が高く、社会課題解決と成長をリンクさせた新しい大学モデルの確立に挑む。
国際卓越研究大学は世界トップクラスの研究大学になるため、政府の大学10兆円ファンドの運用益で集中支援を受ける。助成期間は最長25年。参考にした米国トップ10大学は1兆―4兆円の大学独自基金を持ち、その運用益で研究・教育・社会連携の好循環につなげている。そのため国際卓越研究大も支援終了後に向け、大型の独自基金構築が求められている。
東大は最初の10年間を研究の基礎体力強化の集中期間に設定した。施設・設備の整備などに加え、研究支援の多様なプロフェッショナル人員を倍増させる。次の10年で「カブリ数物連携宇宙研究機構」と「ニューロインテリジェンス国際研究機構」の成功例を参考に、世界中の優秀な研究者が引き寄せられる約10拠点を育成する。25年後には論文数は2倍、1本当たりの被引用数は1・5倍にする。
現在、東大関連のスタートアップの起業は平均で年約30社。これまでに約480社が創業している。今後は支援対象数を10倍に引き上げる。社会課題解決のためのNPO法人などを含め、25年後までの創出は計6500社・件にする。
産学協創では、東大がハブとなり、グローバル企業と日本の産業界をつなぐ強みを重視する。最近では台湾積体電路製造(TSMC)や米IBMとの連携事例が代表的だ。
国際卓越研究大学の認定では平均で年3%程度の継続的な事業成長が求められる。産学協創ではこれを上回る成長を実現する。活動を通じて得た独自資金で基金を拡大し、運用を強化。事業規模は近年の平均1750億円に対し、年3%成長を25年間、続けて3660億円と倍増させる。
「新しい大学」確立へ 世界の公共性へ奉仕
東京大学は国際卓越研究大学の計画で“新しい大学モデル”を掲げた。大学経営ビジネスの視点が強い米国大学などと異なる、世界の公共性への奉仕を重視するのが特徴だ。同大は国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP)などにおいて、国内の他大学にない実績を持つ。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)や人工知能(AI)などの社会課題解決で、東・東南アジアの価値観や切り口を持って議論し、尊敬される存在になろうとしている。(編集委員・山本佳世子)
日本の研究力強化に貢献する公共性の点からは、国内他大学の研究者支援を計画に入れた。基金の運用益を活用し、同大の研究施設・設備を利用してもらう。イメージは「共同利用・共同研究拠点」の大規模版で、研究テーマの目利きの組織を学内に新設する。大学間連携では支援できない研究者個人を応援しつつ、同大の世界的拠点確立などに寄与してもらう。
また基金の運用益は、研究業績が世界トップクラスの教員の雇用や博士学生の奨学金にも活用する。博士学生のうち現在、各種支援で月15万円以上を得ている割合は半分弱だが、最終的に全員にする計画だ。
同大は人文・社会科学系を含めた学術の多様性が、すでに世界トップクラス大学に近いという。この多様性を維持しつつ論文の被引用増や、全学の事業成長を進める計画だ。
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