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私大連は早期撤廃を要望、揺れる大学「23区規制」の行方

地方創生と研究力強化のはざまで大学の定員増を抑えてきた23区規制が揺れている。23区規制は東京への一極集中を抑えるために導入された。東京近圏から都心回帰を進めていた私立大学の経営問題になった。ここにきて3%成長が求められる10兆円の大学ファンド事業や文系学部の理系転換を促す理系5割目標など、大学への大型投資と大改革が決まった。国立大学の経営問題にもなり、元閣僚経験者からは規制緩和の声が上がっている。

「規制前と規制後で人の流れは変わってない。正すべきは正すのが閣僚の責任」と元文科相の萩生田光一自由民主党政務調査会長は国会で現職大臣に見直しを求めた。23区規制は定員増を抑える規制だ。人口動態を変化させるほどの効力はない。規制前後の変化よりもコロナ禍の影響が大きい。東京23区内の学部入学定員数は規制が発動した2018年から21年の年平均成長率が0・78%。17年に議論が始まる前の03―16年の年平均成長率は1・71%だった。効果は東京一極集中のペースを半減させるに留まっている。

これは中央大学の法学部移転など、すでに土地や建物を含めた相当程度の準備が行われていた案件を例外として認めてきたためだ。19年以降の例外規定の届出172件中の50件は相当程度の準備に該当する。届出ベースでは2万7713人が増える見込みだ。施行から5年を経て、相当程度の準備も一巡し「ようやく規制の効果が出てくる段階」(内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局の中野理美参事官)を迎えようとしている。

ここに大型投資と理系5割目標が降りてきた。理系5割目標では文系から理系の転換を促す。これは文系学部を改廃して理系を増やすことで達成できる。例外規定ではスクラップ&ビルド方式の純増のない定員増は認めてきた。

ただ日本私立大学連盟は「スクラップに伴う収入の大幅な減少を見越した上でのビルドは非常に困難」(立教大学の西原廉太総長)と声を上げる。

私大連、早期撤廃を要望

そして10兆円ファンド事業では国際卓越研究大学は年間3%の成長が求められ、25年後には2倍の事業規模になる計算だ。中野参事官は「3%成長に学部生の定員増は必須なのか」と頭を抱える。同事業は研究力強化が目的で大学院強化が前提にあった。ただ博士課程に進む大学院生は少なく、学部生から増やさなければ2倍の事業規模は支えられない。

内閣府の科技系幹部には「定員増なしでの成長は直感的には無理がある」との声もある。東京工業大学と東京医科歯科大学の統合では、医科歯科大の千葉県国府台キャンパスの学生が東工大の大岡山キャンパスで学ぶ構想が難航している。このままでは、いびつな成長を招くのではないかと懸念される。

地方創生のために私大を縛ってきた23区規制が、国立大学への大型投資で緩和される可能性が浮かんできた。この矛盾を飲み込んで国立大学だけの例外としないためにも私大連は早期撤廃を要望する。内閣官房の会議は紛糾し結論は年をまたぎそうだ。

日刊工業新聞 2022年12月16日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
「このままでは都内の大学ひいては日本の大学全体の地盤沈下につながる」、「規制が継続した場合は増収策が学費の値上げに限定されかねない」「(規制の効果は)全くない」「目的が達成されているのか、至急事実検証を行い、その結果次第で撤廃するのが妥当」など、と私大連の調査では散々なことを言われている23区規制がここにきて緩和の可能性が見えてきました。その背景は皮肉なものですが、そもそも10年間の時限措置なので、都心の大学は静かに待っていればよいとも言えるかもしれません。地方の私大からは継続の声もあります。なにより規制自体に例外規定があり、実態は柔軟な運用がなされていると言えないこともないのかもしれません。東京への転入超過の解消は23区規制だけでは不可能になっています。有識者会議では地方の大学と都心の大学が連携したり、キャンパスの立地に寄らず地域と学ぶ地域分散型の大学モデルも検討するはずでした。この議論は深まらず、規制の是非で意見が対立しています。有識者の時間も政策資源も限られています。地域分散型の大学モデルの議論が深まる状況を作らないといけないように思います。

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